朝陽が水平線から光の矢を放ち

アルミニュウムの羽毛を吐きながら真昼の天使は何をはぐらかしているのか
(川田絢音「空の時間」)



夜明けが生まれる景色に海で独りで立ち会うこと。悩みや挫かれた心の反芻にも飽きてしまってただ波の動きを見つめているばかりで。本当の意味で心を空っぽにする唯一の能動的行為。時間も、自分の細胞も常にどこかで生まれている。その喜びを知覚する計器が故障しているような日々、早く修理をしてくれる人を探さねばならない。

新しく借りたもの。

恋する惑星ウォン・カーウァイ。「花様年華」が良かったのでカーウァイ祭り。20代の頃に観たきりだったが、めちゃくちゃ面白かった。試せることは何でもやってみました的な数々のギミックが、この軽やかな2つの恋愛物語の中で見事に機能していた。「夢のカリフォルニア」「夢中人」の2曲も最高の使い方。わざとらしく気どった会話が、自分の青春時代を思い起こさせて、ニヤニヤが止まらなかった。スピード感もちょうど良い、まさに名作。

「2046」ウォン・カーウァイ木村拓哉はおまけみたいなもんだったから、あまり気にならなかった。物語は重層的なんだけど、カーウァイはそこに深く潜らずに軽やかに描くのが上手で、その加減がツボ。優しいんだけどどうしようもない男をトニー・レオンが演じていて、そのハマり方に痺れる。カーウァイの過去作を観た人ならニヤリとする映画。

「ターキッシュデライト」ポール・ヴァーホーベン。何となく猥雑な映画も観たくて借りてみたら最高に良かった。主演のルトガー・ハウアーは存在自体が猥雑で、愛の表現は情念の重さでばら撒かれる。汚いモノもたくさん出てくるし、道徳的に目を背けたくなる部分もあれど、それでもつまりは愛のもとに。それが映画というものだろうさ。

「ナイト・オン・ザ・プラネット」ジム・ジャームッシュ。もう何度も観た、世界各国のタクシードライバーを主役に据えたオムニバス。若きウィノナ・ライダーも、盲目の女を演じたベアトリス・ダルも、ひたすら喋り倒すロベルト・ベニーニも安心して観ることができる。各都市の夜は、彼や彼女らによって寂しくも魅力的に活写されていく。個人的オールタイムベストな映画。マッティ・ペロンパーのしかめ面も雪景色に似合うってもの。

「壊れゆく世界のなかで」アンソニー・ミンゲラ。シリアスなテーマも、主役がジュード・ロウだから救われたところがある。なんてったって相手はジュリエット・ビノシュロビン・ライト・ペンなのだ。どこまでもシリアスにしようと思えばいくらでもできる。ジュード・ロウの温和な表情がいろんな場面で映画の軌道修正を行っている。しかしジュリエットの喜びと哀しみの表情にはいつも心震わされる。その両極の中に世界がまるごと入っているかのようだ。

仕立て屋の恋パトリス・ルコント。10年振り以上前に観たきり だったが、とても良くできた映画だと再確認。登場人物も少なく、淡々とした描写はミシェル・ブランの風貌とあいまってミステリアス。彼が途中で大胆になるシーンが何だか気持ち悪いと思ったのはなぜだろう?

「ホテル・ワルツ」サルバトーレ・マイラ。全編でワンカットという超絶技巧映画。舞台がホテルの中ということで、視覚的な刺激があまりなく、かといって物語にサスペンスが溢れているわけでもない。しかしつまらないこともなく、お芝居を観ているようだった。

外文クラスタには懐の痛い時期。ボラーニョ、ナボコフパワーズがそろい踏みで3冊買ったら14000円である。しかも重量級ばかりだ。迷いすぎて結局何も買うことができず、ついプイグの「ブエノスアイレス事件」を買ってしまった。ウォン・カーウァイが本書に刺激を受けて映画「ブエノスアイレス」を撮ったことを知って嬉しくなったので。


恋する惑星 [DVD]

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2046 [DVD]

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クリーン [DVD]

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ルー・サロメ -善悪の彼岸 ノーカット版- [DVD]

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ルトガー・ハウアー 危険な愛 [DVD]

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ナイト・オン・ザ・プラネット [DVD]

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こわれゆく世界の中で [DVD]

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仕立て屋の恋 [DVD]

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ホテル・ワルツ [DVD]

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2666

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エコー・メイカー

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プニン

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ブエノスアイレス事件 (白水Uブックス (63))

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