スマイソンに溺れて
前回のグリーンに引き続き、またもやスマイソンのノートを買った。他の選択肢もたくさんあったのだけど、この、ノートとしてはかなり高価な部類に入るスマイソンを買うことで緩んだ気を引き締めたいという思いもあって。しかしモレスキンのカセットテープのやつも良かったなぁ。これも多分買ってしまうだろう。
前回は「LIVE LIFE TO THE FULL」の刻印で
今回は「JOIE DE VIVRE」の刻印だ。
「最高に充実した人生を送る」それしかないぜベイベー!って感じで選んだのだけれども、結果から回りしてしまって、ああ、人生って何て辛いんだ!と落ち込むことしきりの1年だった。なので今回はシンプルに「生きる喜び」。うん、いいじゃないか。じっくりと人生を味わいながら、生きる喜びを噛みしめよう。
今回のノートにはいったいどんな言葉が綴られるのか、自分でも楽しみなのです。
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江夏名枝「海は近い」
- 作者: 江夏名枝
- 出版社/メーカー: 思潮社
- 発売日: 2011/10
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この詩集に感銘を受けてから何度読み直したことだろう。部屋の中、電車での移動中、様々な喫茶店で、沖縄のホテルで…。
現代詩手帖の年末特集にこの詩集からの抜粋が掲載されていて、それを読んだ瞬間、あっ、これは自分の心を潤しながら刺激する詩集のはずだと思った。美しいフレーズがそれだけで完結せず、他のフレーズの装いすら変えてしまうだろうと。そして一読して驚愕、あまりの完成度に今まで感想を書くことができなかった。
全部で20ブロックの長編詩である。しかしそれぞれのブロックはその全てがシングルカットできそうだ。いちいち心を持っていかれるから読んでいて気持ちがダレることがない。鮮烈なイメージを放つブロック、気持ちをクールダウンさせながら次へと興味を掻き立てるブロック、様々に刺激してくる。だから一読開くと最後まで読んでしまう。中毒に近い。自分で全文iPhoneに打ち込んでしまおうかと思ったくらいに。
出だしがまずいい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
くちびるの声がくちびるを濡らし、青はまた鮮やかになる。
波打ち際に辿りついて。
波打ち際に辿りついて、ここに現れるのは、あらゆる心の複製である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
短いブロックの中に2回の反復がある。「くちびる」「波打ち際〜」その後にやってくる「あらゆる心の複製である」というフレーズ。
波が寄せては返す映像、空の青と海の青、2つのものが同時にワンフレームに存在して、その絵面は心地良い。
「くちびるの声がくちびるを濡らし」という出だしは、ひとりの女性が砂浜に立ち、音には出さず 、吐息を洩らすように何事かを呟いている絵が浮かぶ。回想も含みながら。それがくちびるを濡らす。目に映る空と海、そして何かを呟いていた女性は「波打ち際に辿りついて」思う。そうだあの時別の方向に向かっていたなら…。つまり僕は「あらゆる心の複製である」というフレーズをパラレルワールドへの回想シーンとして誤読したのだ。そしてその内容はオーソドックスに別離である。
身も蓋もない言い方をすれば、男と別れた女が海を見ながら彼を思い出している。そんな感じだ。
そして次のブロック。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
聴くでもなく聴く。
濡れた砂の上で取り交わされた、声にならない閉ざされた言葉と言葉。水際に漂うのは、高まりを見せて、やがて静かになり離れてゆく、誰かの捨てた風景のかけらであったのかも知れない。その風景に見捨てられた、誰かの言葉であったのかも知れない。
指先に焦がれる想いをひたして。
錆びつきかけた想いを、あらたにしようとして。そのままに、低い熱をとどめるものたちは繋ぎとめられたままで。渚には彼方からの空気が混じりあい、立ち止まる者をも透かす。
波にさらわれてゆく午後の光に身を晒して聴く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
また反復だ。しかしその反復は、反復しながらも少しづつ意味をにじませてくる。情景描写が増え、解像度が上がる。朧げに見えていた風景がキリッとしてくる。
「聴くでもなく聴く」というのは、自然に耳に届く音だろうか。ぼんやりと回想はしていれど、心ここに在らずのまま佇んでいることの描写だろうか。
物語の懐胎、動的な部分。「焦がれる想い」「錆びつきかけた想い」の2つが強く心に迫る。「錆びつきかけた想いを、あらたにしようとして」の「あらたにしようとして」が効いている。「あらたにして」ではないところが。細かく丹念に心の動きを追う。急がない、ジャンプしない。その緩やかさがとてもいい。
そして次の3から、「わたしたち」という人称が使われる。「あなた」も出てくる。過去の回想を象徴する名詞も使われて、1・2での繊細でゆっくりした景色が変化していく。カット割りの後に舞台が変わって質感の違う街並みがスクリーンに映しだされるように。
ここまで書いて、きりがないことを知る。全てのブロックを丹念に追って、自分の心に響いた箇所を列挙しながら最後の1行まで行きたい気持ちが芽生えている。でもそれは不可能なので、最後に感じ入ったフレーズを並べてみます。こうやって切り出すことがいいことだとは思わないけれど、即効性のあるフレーズを飛び石にしてどんどん読み進めて行ったので。
1・あらゆる心の複製である。
2・錆びつきかけた想いを、あらたにしようとして。
2・その風景に見捨てられた、誰かの言葉であったのかも知れない。
3・想いの尽きた身体が陽光で埋められてゆく。
3・見つめようとすると記憶の重心に、いま身体の重心に火がともる。
3・澱のような青色を裸足で踏む。
4・にぶい振動にも似た不安の殻が砕ける。
4・音の聴こえない幸福のようなもの。
5・重なりあういくつもの影絵の黙劇をまた名づけようとする…
6・夜の素描画へとさらわれてしまう。
7・受け止めるものが、すぐに燃えさかってしまう。
8・青色の涙を落とすことを許された余白がめくれる。
9・寓意の雨が美しい習慣に降りかかる現世の一日。
10・先回りして想いを見つめすぎ、折れた光に立ち止まってしまうときにも。
10・感情のコスチュームを整えたなら、ゆるぎなき絶望のうちにあるものは放っておく。
11・わたしたちは言葉を脱いで眠る。
12・どこかへと通じてゆく筈の時間から明るく剥げ落ちてしまう。
12・見知らぬ時の所作たちがわたしたちのまなざしを洗う。
13・わたしたちは激しく夜を攪拌する。
14・青は奪回のための色。全身を染めた後に、跡形もなく放下される。
15・抜け殻の身体を牙をたてない無数のくちびるの群れが通り、軽くブレスする。
16・砕けた貝殻を拾いあげると、濡れた砂浜に全能なる者が通過していった気配がある。
17・数え上げ、細やかな配慮が加えられた世界に対する交渉、支配し、さざめいてまた背景へ身を引くわたしたち。
18・この初夏を孤児のようにしてひきとる。
18・世界の片隅に両腕でからみついて、泡のように静かにしている。
19・あなたのこころの裂け目に耳をあてて眠る夜には、無数の寝室のドアが開いて不眠の娘たちが髪をほどいている。
19・時を過ごすとは、つつましく眼を凝らしてつつましく眼をふせる、明るさへの宿りだ。
20・(ここは全文です)・・・
時は小鳥たちのように、わたしたちによくなついていた。
「いつも目覚めていたい」というもっとも深い欲望、そして深い眠りにありたい。均一な透明の陽に宿されて。
波打ち際に辿りついて、ここに現れるのは、あらゆる心の複製である。
・・・・・・・・・・・・・・
やはりフレーズだけを書き抜いても、全体から受けたその感動はあまり伝わらないだろうと思う。でもその欲求に抗えなかったのも事実です。
詩の言葉というのは、自分の内に抱えておくと、何か景色を見た時や出来事に遭遇した時に、ふらっと顔を出す。自分では付けることのできなかった名前を、それぞれの状況につけてくれるようなものかなと思いました。
そしてこの詩集を読み返していて思ったのは、「ああ、俺もこんな風に描写されたい」もしくはしたい、ということです。
例えば自分の日常を日記などで書くとき、〜した・〜だと思ったなど、起きた出来事とそれに対する感想などを分けて記述する。順列で配置するような。
だけどこの詩集ではその区分けがない。出来事も感想も、回想や景色や心の描写も全てが渾然一体となって美の下に集結してランダムに顔をだす。もちろん作者によってコントロールされてはいるだろうけど、それでもどこか偶然性を感じて、その自由さも含めて感動するのです。
仮にこの詩集が「男女の過ごした履歴を回想している」ものだとすれば、今まで読んだ様々な小説と比較しても、ずば抜けて美しい。真っ先に思い出したのは、デュラス「愛」でした。
BGMに様々な音楽を鳴らしていたのですが、やはりどこか静謐さを感じさせる曲が似合いましたね。高橋幸宏のアルバム「Page by Page」なんか心地よかったです。でも一番よかったのは半野善弘のLIDOに収録されている大好きな曲「亡命者」でした。
半野善弘「Refugee」
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眠りつく境界の、観念が混乱しているその素晴らしい地域で。
恐れがあなたをさいなむように、
恐怖はいつも私の輪郭に咲いている。
正常と異常の狭間で、過剰な何かが手をこまねいている。過度の欲望をコントロールできずに自滅の道を辿るのか。それとも親密な言葉をもっとたくさん獲得して、習慣にひびを入れ、のちに叩き壊すことができるのか。悩みはいつも尽きないが、年々難易度の高いものばかりがニヤニヤ笑いながら近づいてくる。それこそ我が身の輪郭をなぞるように。
カウリスマキの映画、そこにあふれる余白がとても魅力的だ。何となく上手く事を運んでいく主人公の淡々とした演技に希望を感じる。寒々しい景色に時折光がさす。
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ケビン・スペイシーの垂れた頬と疲れた表情のみが印象的。変わり者たちを自由の象徴にしつつ、スパイス的に織り込むことで、安心して観ていられる。小さなハッピーを定期的に見せてくるのが上手。
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オダギリジョーがとてもいい。決闘シーンなどはええっ?と驚くほどチープだけど、全体を貫くトーンは嫌いじゃない。
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復讐三部作。緊張感があってシリアスで救いようがない復讐劇だけど、すごく面白い。オールドボーイに夢中になって身としては大歓迎だ。途中出てきた女の子がひたすら可愛く、この女優さん誰だろうとずっと思っていたらペ・ドゥナだった。大胆なベッドシーンもひたすらチャーミングで。
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何だかトム・クルーズが見たくなりまとめて借りた。やはり2の演出がズバ抜けて好きだ。エマニュエル・べアールの美しさは永遠だなぁ。
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ジュリエット・ビノシュの衣装がとにかく可愛らしい。ある程度年齢を重ねた女性はこういうワンピースを着ればいいのにと思う。少し大胆に、派手めのカラーも恐れずに。きれいにまとまったハートフルな映画。ぜひカップルでどうぞ。
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園子温の自伝ということで喜び勇んで手に入れる。生い立ちから東京ガガガの活動期、自身の映画について、その思想などが縦横無尽に語られる。読んで思ったのは、早熟の狂人はやはり半端ないということだ。映画だけでなく、何かを創作している全ての人に読んでほしい。このリミッターの外し方は劇薬だけれども。
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ノーベル賞も取ったイェリネクの「ピアニスト」「したい気分」を初めて読んだときの衝撃が忘れられない。酩酊した多和田葉子が骨折に気づかずに紛争地のど真ん中を歩いてるような文体。本書は戯曲とのことだが、一人称の語りが延々続く。詩的言語で科学論文を書く前の下書きを散文にしたみたいだ。緊密で隙がなく猶予を許さない。寒々しくも魅力的なカバー写真も含め、覚悟してよむべき。
- 作者: エルフリーデイェリネク,林立騎
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「エレガント」という言葉に惹かれてついポチる。落ち着いたトーンの紫をクールに感じさせるか、それともエロティックだと思わせるのかは、着けている人の雰囲気との科学反応次第だろう。ベゼルも小ぶりなクロノグラフ。最近のデカい時計に無言で反旗を翻すような佇まいの一品。
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「人間は救いようのない絶望のときでさえも、自分の人生が美の諸法則によって構成されるということを知らずにいるのである。」
(ミラン・クンデラ「存在の耐えられない軽さ」)
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朝陽が水平線から光の矢を放ち
アルミニュウムの羽毛を吐きながら真昼の天使は何をはぐらかしているのか
(川田絢音「空の時間」)
夜明けが生まれる景色に海で独りで立ち会うこと。悩みや挫かれた心の反芻にも飽きてしまってただ波の動きを見つめているばかりで。本当の意味で心を空っぽにする唯一の能動的行為。時間も、自分の細胞も常にどこかで生まれている。その喜びを知覚する計器が故障しているような日々、早く修理をしてくれる人を探さねばならない。
新しく借りたもの。
「恋する惑星」ウォン・カーウァイ。「花様年華」が良かったのでカーウァイ祭り。20代の頃に観たきりだったが、めちゃくちゃ面白かった。試せることは何でもやってみました的な数々のギミックが、この軽やかな2つの恋愛物語の中で見事に機能していた。「夢のカリフォルニア」「夢中人」の2曲も最高の使い方。わざとらしく気どった会話が、自分の青春時代を思い起こさせて、ニヤニヤが止まらなかった。スピード感もちょうど良い、まさに名作。
「2046」ウォン・カーウァイ。木村拓哉はおまけみたいなもんだったから、あまり気にならなかった。物語は重層的なんだけど、カーウァイはそこに深く潜らずに軽やかに描くのが上手で、その加減がツボ。優しいんだけどどうしようもない男をトニー・レオンが演じていて、そのハマり方に痺れる。カーウァイの過去作を観た人ならニヤリとする映画。
「ターキッシュデライト」ポール・ヴァーホーベン。何となく猥雑な映画も観たくて借りてみたら最高に良かった。主演のルトガー・ハウアーは存在自体が猥雑で、愛の表現は情念の重さでばら撒かれる。汚いモノもたくさん出てくるし、道徳的に目を背けたくなる部分もあれど、それでもつまりは愛のもとに。それが映画というものだろうさ。
「ナイト・オン・ザ・プラネット」ジム・ジャームッシュ。もう何度も観た、世界各国のタクシードライバーを主役に据えたオムニバス。若きウィノナ・ライダーも、盲目の女を演じたベアトリス・ダルも、ひたすら喋り倒すロベルト・ベニーニも安心して観ることができる。各都市の夜は、彼や彼女らによって寂しくも魅力的に活写されていく。個人的オールタイムベストな映画。マッティ・ペロンパーのしかめ面も雪景色に似合うってもの。
「壊れゆく世界のなかで」アンソニー・ミンゲラ。シリアスなテーマも、主役がジュード・ロウだから救われたところがある。なんてったって相手はジュリエット・ビノシュとロビン・ライト・ペンなのだ。どこまでもシリアスにしようと思えばいくらでもできる。ジュード・ロウの温和な表情がいろんな場面で映画の軌道修正を行っている。しかしジュリエットの喜びと哀しみの表情にはいつも心震わされる。その両極の中に世界がまるごと入っているかのようだ。
「仕立て屋の恋」パトリス・ルコント。10年振り以上前に観たきり だったが、とても良くできた映画だと再確認。登場人物も少なく、淡々とした描写はミシェル・ブランの風貌とあいまってミステリアス。彼が途中で大胆になるシーンが何だか気持ち悪いと思ったのはなぜだろう?
「ホテル・ワルツ」サルバトーレ・マイラ。全編でワンカットという超絶技巧映画。舞台がホテルの中ということで、視覚的な刺激があまりなく、かといって物語にサスペンスが溢れているわけでもない。しかしつまらないこともなく、お芝居を観ているようだった。
外文クラスタには懐の痛い時期。ボラーニョ、ナボコフ、パワーズがそろい踏みで3冊買ったら14000円である。しかも重量級ばかりだ。迷いすぎて結局何も買うことができず、ついプイグの「ブエノスアイレス事件」を買ってしまった。ウォン・カーウァイが本書に刺激を受けて映画「ブエノスアイレス」を撮ったことを知って嬉しくなったので。
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聴こえない悲鳴は夏の空を引っ掻いている。
感情のコスチュームを整えたなら、ゆるぎなき絶望のうちにあるものは放っておく。
(江夏名枝「海は近い」)
gris ciel。服装なんて決まらないから絶望も叱咤も爆発も引き連れて日々、とらえどころのないほつれに惑わされる。窓話されるなら楽しそうでいいのだが、惑星の規模で逡巡はキツい、優しさが足りない、まだまだ。優しくないと伸縮性のある言葉が出てこない。たくさんの他人を媒介にして、ビニールシートを広げるようにバサッと、羽衣の美しさでふわりと布を開いていくような言葉を注射して循環させなければ。
いつものように借りてきたもの。
ベネックス「青い夢の女」。先日観た「ベティ・ブルー」が本当に面白くて、未見だった本作をレンタル。原作は発売時に読んだけど全く覚えていない。「セックス依存症だった私へ」の頃とは違って激ヤセのジャンユーグがはまり役。「ベネックスの新しいミューズ!!」とパッケージにかいてあった女優さんは確かに綺麗ではあるけれど、やはりベアトリス・ダルのインパクトは超えられない。リンチの赤を青にして、「奇妙なサーカス」のオープニングをひとつまみ、精神分析とひっきりなしの煙草とセックス。そんな映画。でも退屈しなかった。
廣木隆一「やわらかい生活」。「ロストシネマ」で紹介されていたので見たくなりレンタル。寺島しのぶに複雑な感情を抱く。感情のグラデーション、その表現力はすさまじく、名優だよなぁと思えど、彼女が男に甘えるような雰囲気を醸し出したとたんにイライラしてしまう。彼女の女臭い部分に過剰に反応している自分が許せないのだろうな。トヨエツの変な文体みたいな雰囲気はもう芸術だな。
パトリス・ルコント「親密すぎるうちあけ話」。借りるものに悩んだらルコント、の法則にのっとって「青い夢の女」同様に精神分析ものを。ルコントの映画は気弱な男が軽い事件に巻き込まれて、そこで愛に目覚めるというのが多いけど本作もそう。フランス映画は、会話時に相手を否定する際のバリエーションが多くていいなぁと思う。口角泡撒き散らして、だけではない否定の仕方。ユーモアやシニカルも含め。あと主役の女性はベレー帽がよく似合ってた。
ロベルト・ベニーニ「マイライフイズビューティフル」。恥ずかしながら未見だった。俳優としてのベニーニは「ダウン・バイ・ロウ」や「ナイト・オン・ザ・プラネット」などジャームッシュの作品で堪能したが、本作はまさしく彼の映画、最高に素晴らしかった。前半のファンタジックさ、そしてナチスの収容所に入れられてからの後半、ともに明るさとユーモアを忘れずに、愛する大切な妻と子供を励まし続けるその姿勢に涙が止まらない。貫き通す、守り続ける。今の自分に足りないものを一気に見せられて心臓が緊張して仕方なかった。
残りの2枚はこれから見ます。
現代詩文庫の新刊に川口晴美があったので驚きながら購入。「EXIT.」や「lives」を擦り切れるまで愛読した身としては本当に嬉しい。
Twitter上で自分も詩を書き始めてから、詩集の読み方が変わった。段落や改行をすごく意識するようになった。本来の自分は、村上龍の延々続く描写のような詩を書きたいと思っていたから、そんなテクニックもないのにダラダラと書いては、その中からエッセンスとなり得る言葉を抽出して再構成するという手順を踏むことが多く、自動筆記のまねごとみたいな書き方をしていた。
しかしそれではもともと薄っぺらな文章なのだから密度や重みが出ない。じゃあ頭から悩んで悩んでこれだ!という言葉や連なりができたら、そこからじっくりと書き進めていく王道的な書き方はどうか、と思って実践していたら、以前に詩人の八柳李花さんからいただいた言葉を思い出したのだ。
「ことばを慎重にためてみてください。一行に苦しみがあって、改行でそれを乗り越える開放的な内在律(リズム)がある。」
この言葉を反芻しながらpw10の連詩を書いてはみたけれど、それが成功したのかどうかはわからない。ただ、つねに戻ってこれる軸のような言葉があるだけで、苦しみながらも助けられている感覚で詩が書けたのがとても嬉しく、次回の番はどんな言葉が自分の中から飛び出してくるのかが楽しみでもある。本の感想や日記の文章などを褒められるより、自分の書いた詩を良いと言ってくれるのが一番嬉しいのは、僕の作風が常に自分の人生を反映させているせいだろう。
自分でもヤバいと思ってはいたけれど、気づけばネットで腕時計ばかり見ている。時間を知るためのアイテムなのに、そのプロダクトの造型ばかりに惹きつけられる。そして仕事用の時計を衝動買い。自分の好きな緑色。ベゼルのグリーンが光に反射する様子を木々の葉のきらめきになぞらえて、明日も川沿いを走って仕事に行こう。
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I live to fall asleep?
私の生は、今聴いているジャズみたいだと思う。ただし、もっと奥が深い。目眩がするほどぐるぐる回ってどんな秘密の苦しみを私は振り払おうとしているのか。
(アナイス・ニンの日記)
新しい光のほうへ、饒舌に、存在を複写してばらまきながら。「僕のスクーター、君の国へ向かう。君のこと、僕のものにする」と歌った古賀森男の旋律をかりて円環、子供たちが糊で手をべたべたにして作るパーティーの飾りみたいにカラフルな輪っかを天井からぶら下げて、自分にレイを掛けて。病院に運ばれ、空き巣に入られ、洗濯機が壊れても、ほら、まだ生きている。失うと考えると空しくなるから消えたと定義して処世。Can I carry me?is dead my life hold die relax。
「アルビノアリゲーター」白い鰐。ケビン・スペイシーの初監督作品。名優と呼ばれる人の監督作には当たりが多い。ゲイリー・オールドマンやティム・ロス、スティーブ・ブシェーミetc。そして我が永遠のミューズ、ジュリー・デルピーの作品。しかしマット・ディロンの純朴な間抜けぶりは最高だ。反比例するようなゲイリー・シニーズの理知的な表情と強靭な意志の宿った目。フェイ・ダナウェイは前に見た「アリゾナドリーム」と同じようにチャーミング。美人ではないけれど時々ゾクっとする色気をフィルムに焼きつける。願わくばケビン・スペイシーも出演してほしかった。もうひとりキャラが立っている人が画面にいると映画自体が色めくような気がした。
「男と女のいる歩道」VIVRE SA VI。好きなように生きるわ、でも殺されちゃうの、それも人生よね。ひっきりなしにジタンを吸うアンナ・カリーナ、その大きな瞳に吸い込まれる。オープニングでの背中を向けたままの語り、その微妙なアップに自分のコンフォートゾーンをまず破壊される。変に傾いだピンボールマシンのシーン。一気に引き込まれて、このスナップショットに詩が添えられたような映像から目が話せない。ゴダールの絵はみんな乾いている。厚塗りされたリキテックスみたいに変則的に乾いていて存在感が半端ない。退屈・意味わからないシーンと目を見張るシーンがうちわの両面に印刷されていて、それを自分でくるくる回しているみたいだ。「裁かるるジャンヌ」を観るシーンでの突然のアップ、その恐怖にも似た恍惚。直後の涙による流れる滝のような激しい浄化。全然関係ないけれど、レオス・カラックス作品でドニ・ラヴァンが初めて人に愛を覚えた時に、その概念がわからずに早足で歩きながら自分の拳を壁に擦りつけて痛みを得ることで表現したシーンを思い出す。全く違う意味で…こちらは喪失感の補助としてか…「トリコロール青の愛」でジュリエット・ビノシュも同じ行動をとっていた。
アルノー・デプレシャンがすごく好きなわけではないが、マチュー・アマルリック週間につきレンタル。例えば何分かに一度定期的に刺激的なシーンが用意されているテンポのいい映画も好きだけど、フランス映画嫌いがよく言う、退屈・ダラダラ長い・意味わかんない・何でそんなに考えてばかりなの・恋とか愛とか言い過ぎ・結局何が言いたいの…みたいな映画が好きなのだ。饒舌に語り、時に逡巡し、他人にはわからない大げさな悲しみにくれ、精神分析医にまくし立てる登場人物たちに限りない愛着を覚えてしまう。今作は2時間以上と長めだが、全く退屈しない。心がイレギュラーを感じるのは主人公の女性のエラの張った前衛彫刻みたいな顔だけで、あとはスムーズに楽しめた。マチュー・アマルリックの、実際に表現はされないが、子どもじみた行動をとっていろんな連中に迷惑かけてきただろう過去も行間から感じるし、精神病棟での女子学生との、本来なら淡い恋心としてフワッと描けるシーンも、その饒舌と猫背と変質加減で台無しに、でもリアリティたっぷりに演じられるていてよかった。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる精神分析医に嫌味を言うシーンもわざとらしさが無く、イラついているドヌーブも最高だ。そしてガンで死んだ父の娘に対する思いのエグさ…これには引きまくった…そしてマチューが人生を子どもに語るシーンの誠実さ。デプレシャンは派手な演出を使わずに、でも執拗に心に巣食った言葉を拾い上げる。その加減で彼の映画の良し悪しが決まるのではないかと思った。ラストシーンでのディッキンソンの詩…Twitterで教えてもらいました…がとても響いた。
水は のどの渇きが
陸は 越えてきた海が
恍惚は 苦痛が
平和は 戦いの物語が教えてくれる
愛とは その記念碑だ
もはや渇きはない
2本の脚で大地に立ち
今 私は安らぎのなかに…
過去の自分と比較しても状況的には不幸であるだろう現在、そんな中でも慈しむ気持ちが芽生えて、真新しいホースであの娘に向かって気持ちを注ぐことができているのは誰の悪戯だとしてもいいことだ。秘密の苦しみはもう振り払えたのだろう。
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詩の練習蝶9「ISDEAD」
【ISDEAD】
ピリオドは打つ前にト音記号のレールに滑らせた。肩肘張った男が死の直前に歌う。男のスケールはブローチ程度、何度も針がためらう。
ボム!!全ての若き野郎どもよ、水晶の壺を満たした老人の、持て余した人生のフィギュアを砂漠に埋めてやれ。
ボム!!たった一つのトランキライザーをラジオに接続し、音楽を液体に変えて果てしなく飲め。
ボム!!To late。かぎ裂き。小さく微笑むプラレールの車輪。To late。染み付き。甘い時間を吸い取る紙の質。汗をかけ、水を飲め、右手だけが能動。
ボム!!青い視線、黒い鎖骨、橙の涙、緑の声、赤い夢、白い接続。話しかけて、お願い、ひとりにしないで。
ボム!!気分は爽快。回って、何度も、グランドを。触れて再びジャックを差し込んで、君の肌から皮膚を一層いただいて。
ボム!!<心に新しいフライヤー>を刷るために真夜中に吠えるコヨーテを捕まえろ。涙の予定を鼓膜に貼り付け、<種の夢がタイトに群れの中でスイング>する時に青空の悲しみにポラロイドをくれてやれ。
失う日を彼は知らず、シートベルトに抜け殻だけが固定。機会ロスから始まった男の、何もかもがずっとそのままの夏が、内側から外側に移動してぬめる。もう会えない、さよなら、またいつか。滲んだ血を詩人が振りまくフューネラル。フランスから少女が来る。
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