ミラノ、朝のバールで

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異国の地、旅、ここではないどこか、世界の車窓から。そう、まだみた事のない風景を見る事は、それが例え映像であっても楽しく、心踊ることだ。

パパに会うために自転車で南米大陸50000kmを旅する映画「ラテンアメリカ光と影の詩」を始めとして、ロードムービーが大好きなのも、ただただ見知らぬ風景を見たいからにほかならない。ここにいる
自分を映像の場所へ投影して自由に歩き回らせる。空想や妄想のなかでも、とりわけ楽しい行為だ。

前に読んだフランスのブランドを紹介する本で、この妄想癖に着火。すぐに図書館んに走り、次に選んだのはイタリア・ミラノである。

グリーンの表紙、窓際で向かい合う猫、光に眩された窓ガラスを通して見える庭。ひたひたと幸福感が染み渡ってくるような素敵な写真の本書は、本来ならば購入して飾ってしかるべきものかもしれない。一枚の絵や写真が日常の一コマに豊かな彩りを添える、その効果を期待して。

幼い頃姉からプレゼントされた一冊のイタリアを映した写真集に魅了され、イタリアへの想いを募らせながら、それを撮った写真家に何年もの間、手紙を書き綴る。大人になった少女は、ついにイタリアに渡り、働いていたレストランのイタリア人と結婚する。その後のイタリアでの生活を綴ったエッセイである。

書いてあることはいたってシンプルな日々の生活だ。取り立てて大きな事件が起きるわけでもなく、涙を誘うようなエピソードが満載なわけでもない。旦那のレストランのこと、始めて足を踏み入れたナポリの風景、タップダンス教室の同級生がオジサンと子供という組み合わせが可笑しさを誘う話、家族の事、青空市場の話、そして数多くの料理のこと。等身大の身のまわりについての数々が抑制された文章で綴られていく。

イタリア人が日に何回もbarに行き、エスプレッソを立ったままサッと流し込み立ち去る様を「生活の流れのなかに句読点を打つが如く、彼らのその動作にはなにか身の引き締まるような清々しさを感じる」と書き、イタリア人の男性を指して「イタリア人のサービス精神はボローニャソースみたいなところがある、コクがありもちろん美味しくて密度が濃い。情熱的な国民性ぴったりの迫力ある味」と形容する。

子羊肉のツナソース添え、コロンナータ産のラード、パルマの生ハム、水牛のモッツァレラ、サフランのパスタ、ポルチーニ茸のリゾット、口直しのレモンシャーベットにトルタに合うデザート酒・・・日本でもお馴染みの料理や食材だけど、
イタリア生活のエピソード、その文脈のなかでこれらの固有名詞が登場すると思わず涎が出てしまう。ママ譲りのトマトソースや新鮮なパプリカ、おびただしい色の強制的な想起、その心地よさ。

少しだけ味のついたナチュラルウォーターのような、レモン風味のペリエ、その微発泡の泡みたいな控えめで、でもその余韻はきちんと存在感がある。そんな、なんとも形容しがたい素敵なエッセイ集なのです。


BGMはdivinecomedyの名曲「something for the weekend」この鐘は日々を祝福する鐘だ、きっと。
The Divine Comedy - Something For The Weekend live