「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」斉藤守彦

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映画がなければ生きていけない、という時期があった。年間300本近く観ていた年、毎週末には決まって3、4本の連続上映だ。コーヒーと煙草を用意して安物のディレクターズチェアに座り、四畳半の部屋で世界の物語へ飛びこんでいった。勿論映画館で観るのが一番いい。けれど時間的、料金的制約が多くて、忙しい日常の中でその時間を確保するのは難しい。いろんなことを犠牲にしないとスクリーンに辿り着けない。300本のうち劇場で観たものは10本に満たないと記憶する。

日本の映画料金1800円は高いか否か。そう尋ねればほとんどの人が高いと答えるだろう。僕もそう思う。素晴らしいものを観た後では、こんな体験がこの料金でできるなんて、映画はやはり素晴らしいと思うこともあるが、あくまでも事後的なこと。1800円は他の娯楽と比較しても高い。個人差もあるだろうけど。

本書は映画業界の裏側を、様々なデータを元に暴露していく。暴露といっても、ゴシップ誌的な面白さは皆無だ。著者の文体は重く、攻撃的でとっつきにくい。例えば、職場で部下の仕事に関する文句を、正論だからってそのままきかなきゃならないめんどくささと同じ。正論ぶちかますだけじゃなく、切り口を変えて「伝える」ことに主眼を置こうぜ
なんて心の中で思いながらも、はいはいそうね、君の言う通りだね、みたいな。

しかし映画産業がどういう成り立ちで、値段は誰が決めて、どういう利益分配なのかあますところなく書かれている。結構ザル勘定のところもあり、もっときっちりシステム化されているのかと思っていた僕には目から鱗でした。

過去のスクリーン数・入場者数・売上・入場料などを比較しながら映画産業はサービス業であるもっとサービスについて総合的に考えて運営すべきという著者の主張には全面的に賛成だ。パチンコ屋の定員が客とすれ違う時に一礼する時代だ、1800円をキープするなら、何か付加価値が欲しいと思う。

決して読みやすくないけれど、為になる一冊。映画で食っていきたいと思う若者には有益じゃないかな。現状のシステムはこうなっていますよということで。僕なんかは逆に、
こんなに沢山のスクリーンと従業員がいて儲けはこれだけ?と思ってしまった。これなら個人レベルで何か始められるんじゃないか?とも。まあ映画産業はギャンブルと同じだということが分かりました。

ちなみにネットで拾った各国の映画料金2001年度

日本         1800円
アメリカ    770円
フランス    605円
韓国            550円
スペイン     418円

ん〜、まあ一概にこの値段ではないのだろうけど、こうやって比較されるとやはり高いかな。


BGMには、最初聴いた時浮かんだ情景のリアルさがまさに映像的で半端なく痺れた佐野元春sweet16」を。若手の監督が撮った疾走感溢れる青春映画のエンディングなんかで流れてほしいな。疾走感・詩情・世界観全てが完璧に調和した一曲。「トンネル抜けた小鳥のように悲しみが消えた」というフレーズは何度聴いてもドキドキするし、もう今の自分はこんな気持ちになることはないのだろうという喪失感、そしてでも過去にはそういう気持ちになったこともあったぞなんて甘い記憶も蘇り感情の振れ幅が凄すぎる。歌詞は詩人佐野元春の面目躍如。この歌が入ってるアルバムは一番好きなアルバムなので(名曲揃いというのはまさにこのこと)、是非とも歌詞カードとにらめっこしながら聴いてほしいな。ライブだと歌詞が聴きとれないんだよね。 
佐野元春 サークルツアー SWEET16