「フルカワヒデオスピークス」古川日出男

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「頭が横にズレるみたいなショック」とは本書の中で古川が発した言葉だけど、まさしくこの本を読んだ自分がそう思ったよ。ピシッと亀裂が入った瞬間そのままズズッと頭がスライドしてさ。本人気づいてない、みたいな。

何とも好奇心旺盛な古川日出男が選んだ対談者はこちらの面々。

ー内容紹介(Amazonより)ー
三島由紀夫賞日本SF大賞受賞作家・古川日出男、初の対談集 ──異ジャンルの表現者たち11人と語りあう。 

『アラビアの夜の種族』『LOVE』『聖家族』と話題作を次々に発表して高い評価と熱い支持を受けている気鋭の作家・古川日出男が、アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文脳科学者の茂木健一郎をはじめ、ロック・ミュージシャン、ダンサー、アーティスト、ファッション・デザイナー、翻訳家など異ジャンルの表現者たちと語り合う迫熱の対談集。

 本書は批評家・佐々木敦が主宰するカルチャー雑誌『エクス・ポ』とアルテスパブリッシングとのコラボレーション企画第1弾です。 

対談ゲスト(掲載順)
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
iLL(中村弘二)
坂本慎太郎(ゆらゆら帝国)
黒田育世(ダンサー)
桑原直(ファッション・デザイナー)
大竹伸朗(画家)
和合亮一(詩人)
岸本佐知子(翻訳家)
佐藤良明(アメリカ文学者)
茂木健一郎(脳科学者)
佐々木敦(批評家)

僕は対談者全ての作品を知っているので、かなり興味深く読んだけど、そんなことは気にしないで大丈夫。どの対談も「表現すること」についての考察に充ちていてすこぶる刺激的。古川日出男が要約と言い換えの天才なので、対談者の説明や感覚的な言説もスパッと鮮やかに表現し直している。まさしく古川の小説に出てくるセリフ回しのように。

「勝手に今までの自分を開放して、同じ名前だけど次のバンドにしました、みたいなやり方で方法論を考えないといけない」

iLLとの対談での古川はこう話す。スーパーカーやニャントラを経由してソロになったナカコーに対して、小説家の自分は最初から一人だから、成長してフェイズが変化していく自分の状態はこんな感じだと説明した文章だ。簡潔でカッコいい。

他にも、ダンサー黒田育世との対談で、お客のアンケートについての話しでは

「アンケートは見ないほうがいいですよ!素人は言葉で十全に表現できないですから。おもしろくない、にもいろいろなグラデーションがあるのに、おもしろくない、嫌だ、と一言に凝縮されてしまうから」

とぶった斬る。そうそう、言葉で何か伝えようとした場合につい最大公約数的な台詞がつい口をついてしまう、そしてその他の言い回しが出てこない経験は、日常いやというほどある。それをグラデーションというところが素晴らしい。

それ以外にも膝を打つ表現の連発で、読めば読むほど嫉妬の炎が燃え上がる。解像度の高い対話を読むことによって、自分が今生きているステージからジャンプして海に飛び込むような心持ちだ。茂木健一郎の饒舌や、佐藤良明の古川作品の読み解き方や、和合亮一の詩のとらえ方と格闘の履歴を始め、刺激を受けない対談がひとつもないというオールマイティーぶり。

大げさに言ってしまえば、全ての表現者に読んで欲しい本。表現の海の中にどんどん引きづり込まれて、覚醒していく感覚が(ひどい形容だ!)刺激と安らぎをもたらしてくれるはず。

BGMはもうこれしかないワールズエンドガルフレンド「SINGING UNDER THE RAINBOW」。映画「おそいひと」のエンディングテーマでした。この映画もとんでもないシロモノでしたね。
world's end girlfriend - singing under the rainbow

エクス・ポ・ブックス1 フルカワヒデオスピークス! (エクス・ポ・ブックス 1)