「虫と歌」市川春子

帯にある「深くて軽やか、新しい才能!!」という言葉そのものだった。書き込みの少ない画風はもともと好みではないのだが、そんなことは一切気にならず夢中で読んだ。大げさではなく、本当に感動した。特に、印象に残る映画のワンシーンのようにゾクゾクさせられた148ページの一コマは、そうなるだろうと予想できていたとしても、その絵が目に飛び込んできた瞬間の感動たるや言葉を失った。

全部で4つの中編が収められている。現実には起こらないSF的設定を用いているにも関わらず、どの作品も、なぜか自分が生きているこの世界のどこかで事が起こっているのではないかと思ってしまう。登場するキャラクター達が、僕の知らないところで生きている。そんな彼らが愛おしくてしょうがない。

出会いと別れ。これが各物語のコアだ。よくあること。あらゆる芸術で使い回され古されたソレ。この作品集では吹きだしの多用と極端な省略がその効果を劇的に上げている。その切なさが半端ない。

たった一つの小さな「ナット(ネジにはめる6角系のあれ)」のようなものが転がることから世界が広がって行く「日下兄妹」や、モノクロームだからこそ昼と夜の描き方、そのダイレクトな光量や、呼応する心象風景もまた格別な味わいをだしている「星の恋人(僕はクローン人間のさつきに恋をしてしまった!)」の二編が特別だけど、他の作品もそれぞれに素晴らしい。

いろいろな人たちが指摘している高野文子との類似は僕も思いましたが(悪い意味ではなく)まっさきに思い出したのは小林エリカ終わりとはじまりだった。世界の名詩をモチーフにしたこの作品集も、こころがキュッとしめつけられる淡さを纏った切なさに満ちている。

純度の高い涙がするすると頬を伝っていく、恥ずかしいけど。たくさんの人に読んでほしいと心から思う作品なのです。

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