「計画と無計画のあいだ」三島邦弘


自分で出版社を作る、しかも取次を通さないで直販にするという。この無謀さは本屋で働いたことのある人ならわかるだろう。僕も何軒かの書店で働いたことがある。延べ6年間くらいはやっただろうか。

毎日大量に入荷する新刊。それは書店員が注文しなくても自動的に送り込まれてくる。お店の売り上げや面積、本部の指示などによって配本数(配本パターン)が決まっている。しかも返品すればお金はかからない(詳細はかなり端折ってます)。だから店舗の規模によっては、せっかくの新刊であっても棚に並ばないものがたくさんある。置く場所がないからだ。あとは自分の店には不要だと思った本も。即返品をかけるのだ。

その流通に本がのらないのである。だから出版社は全国にある書店に営業をかけ、取引が始まったら新刊を出す度に注文を取る。書店もこの一社の為に新しく口座を開く手間が増える。おそらく買い切りで返品は基本的にないだろう(本の交換などはあるかも)。そして買い切りだから卸値が下がり、欲しい冊数だけ入荷する。双方にメリットデメリットはあるが、いずれにせよ手間がかかる。普通ならやりたくないだろう。

そんな状況で出版社を立ち上げた著者の五年間の軌跡(奇蹟?)がたっぷりつまっている。本のタイトルである「計画と無計画のあいだ」という書名が表しているとおり、著者はほとんど計画を立てずにどんどんやってしまう。思いつきもたくさんある。いきなり事務所を借りて、資金の1/3が無くなってしまったり、足湯がいいと思ったら事務所内にその場所を作ったり。道標は自分の本能だけだ。良いか悪いか、普通かどうか、なんていう物差しではなく、自分がやりたいかどうか、やるべきかどうか。このシンプルな原則に従って会社は船出する。

もちろん色んなことがあっただろう。お金も時間も余裕がないだろう。それでも風変わりな連中とともに楽しそうに働いている。欠点だらけの社員達。社長自身もそうである。Excelひとつ満足に使えない。しかしダメな部分があってもいい部分があればそちらを伸ばせばいいじゃん、とでもいうように皆の良い部分を徹底的にフューチャーする。大抵のことはできて当たり前、さらにスキルを肉付けしろ!そうしないと生き残れないぞ!なんていう会社とは大違いだ。

本書後半ではだんだんと熱い気持ちが全面に出てくる記述が多くなる。良いものを丁寧に作って、その熱量が本に閉じ込められた状態のホカホカを書店、読者に届けたい。そのためにはどうすればいいか。具体的なやり方と気持ちがつまっていて、読んでるこちらも熱くなってくる。

「どんなに無法者たちの集まりであっても、全員が自分たちの仕事として真剣にぶち当たるかぎり、結果として、明日は必ず見えてくる。この一冊が読者の元へと伝わらないかぎり自分たちの明日はないという思いで、ぶち当たるかぎり。」

駆け足で読んでしまったが、ゆっくり再読しよう。上記の言葉に込められた著者の想いを、まんましみこませる為に。

【今日の一曲】
こんな時代だからこそ、自分で決めて自分が動く。好きなことをやり続けるのは本当に大変だけど、一歩を踏み出さないと何も変わらない。自分へのエールも込めてこの歌を。
http://www.youtube.com/watch?v=9vbR5U8H1ds&feature=youtube_gdata_player

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