「上野先生、勝手に死なれちゃ困ります」上野千鶴子・ 古市憲寿


最高に面白かった。この充実した対話が新書で読めるなんて信じられない。


◎ 内容説明(Amazon
ベストセラー『おひとりさまの老後』を残して、この春、東大を退職した上野千鶴子・東大元教授。
帯の名文句「これで安心して死ねるかしら」に対して、残された教え子・古市憲寿が待ったをかける。
親の老いや介護に不安を覚え始めた若者世代は、いくら親が勝手に死ねると思っていても、いざとなったら関与せずにはすまない。
さらに、少子高齢化社会で、団塊世代による負の遺産を手渡されると感じている子世代の先行きは、この上なく不透明。だとすれば、僕たちが今からできる心構えを、教えてほしい......と。これに対し、「あなたたちの不安を分節しましょう。それは親世代の介護の不安なの? それとも自分たち世代の将来の不安なの?」と切り返す上野。
話は介護の実際的な問題へのアドバイスから、親子関係の分析、世代間格差の問題、共同体や運動の可能性...etc.へと突き進む。
30歳以上歳の離れた2人の社会学者の対話をきっかけに、若者の将来、この国の「老後」を考える試み。

◎ 目 次
上野先生、勝手に死なないでください!(古市から上野先生への手紙)
この本の読み方(古市憲寿)
第1章 何が不安なのか、わからない、という不安
第2章 介護という未知のゾーンへの不安
第3章 介護保険って何?
第4章 それより自分たちのこれからのほうが不安だった
第5章 少子化で先細りという不安
第6章 若者に不安がない、という不安
第7章 不安を見つめ、弱さを認めることからはじまる
古市くんへ(あとがきに代えて 上野からの返信)

自分の老後の不安、そして親が老いることの不安。今はまだ大丈夫だからと、必ずやってくる問題を先延ばしにして生きてきた自分にとっては、かなりグサグサ突き刺さる内容だった。

古市憲寿の語り口が柔らかいのがいい。友達と話しているような親近感。学術用語も出てくるが、注がついてるので安心。その注も古市本人が書いているのか、とてもわかりやすい。

古市の疑問を上野は明快に答えていく。最初に記される古市の不安の中身、そのカテゴライズの見事さ。

・親子関係が徐々に変わっていくことに関する「関係不安」
・実際に介護が始まっちゃったらどうなるかということに対する「介護不安」
・その時、お金はどうすればいいのかという「経済不安」
・サービスはどうすれば調達できるのかっていう「制度不安」
・それに絡んで、自分はどこに住むのか、同居しなければいけないのかという「同居不安」
・そしてその際、仕事はどうするのかという「就労不安」
・さらに、親が要介護状態になったあと、親の生き死にまでを含めたいろいろな意思決定を、どう引き受ければいいのかっていう「意思決定不安」
・その意思決定を自分がやるしかないことへの絶対的な「孤独への不安」・・・

この道しるべがあることで、対談の目指す方向がよりクリアになり、風通しのよいものになっている。僕らは古市と同席しながら上野の話を当事者として聞くことができる。

そして古市の専門である、現代の若者像に関する対話も流れのなかで出てはくるが、あくまでも介護不安に答える、という軸があるので、話が散漫にならずきちんと帰結する。

何とかなるだろうでやってきた自分としてはかなり厳しい話が続くが、目を背けずに読めたのは、古市のこの語り口のおかげと、上野のチャーミングさによるところが大きい。

本書を読んでもすぐに答えは出ないだろう。しかし、いざという時の準備をするための明確な答えがある。今のうちからひとつづつクリアして自分を安心させておくことはできるだろう。

実際役に立った部分といえば、介護保険と介護に関する制度の説明だった。実際に自分で調べればわかることだけれども、それを知ってる人に説明してもらうのとは雲泥の差がある。細かいニュアンスがよく伝わるので、まずはそれがどういうものかというざっくりとした理解を得てから、実際に調べることができたのはかなりありがたい。

古市が常々思っていること、その自己中心的な考えも、やり過ぎじゃないの?とこちらが心配してしまうほど開陳されている。この内容も、今の若者の本音として知ることができたのも収穫かもしれない(てめぇ、わがまま過ぎ!と最初は思ったけれど)。

読んで面白く勉強になる。そして「老いる」といことを前提に、人と人が関係することにおいて大切なことがたくさん書かれている。様々な問題に対していかに「ソフトランディング」していくか、その手段が明確になっている本書は、全ての人に読んでほしいと心から思ったのです。

上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください (光文社新書)
上野千鶴子 古市憲寿

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