「まばたきとはばたき」鈴木康弘


海の上をファスナーの形をした船が進んで行く。その波紋はまるでチャックが開かれていくようだ。海のチャックを開く。開放的だ。様々なイメージも去来する。素晴らしい発想をもったアーティストだと思っていたら作品集が発売されたので、まだ店頭に出している最中に店員の手から奪うようにして買ってきた。

ファスナーの船のインパクトが強すぎて、他のパフォーマンスはそれより劣るのだろうと勝手に決めつけていた。あんな壮大で、想像力豊かなパフォーマンスはそうそうないぜと。

しかし開いた最初のページからノックアウトされてしまった。漢字の「上」が紙の裏側に透けると「下」に見えることを発見したことから、特殊なインクを使って「上」という文字だけをパラパラマンガの要領でめくると「下」の残像が生まれるという作品。

椅子の影が見る角度によって音符のようだということから、背もたれの枚数を変えて8分、16分、32分音符のミニチュアの椅子、その影を作ってそれを円盤状の五線譜に次々と投影し、無音の音楽を奏でるという作品。

会社などで使われる「請求書」「確認済み」などのゴム印。押された印字側には「過去」押す側には「現在」と記されている。つまり現在の判子を押すと過去が印字されるということ。単純な言葉遊びのようだけど、こちらの想像力を刺激してやまない作品。【自分自身の中に決して追いつけない「ずれ」があります。さっきの自分/今さっきの自分/今の自分。自分の記憶を微分していったとき、自分はどこにいるのでしょうか? P68】

木の葉が散るときにはくるくると回りながら落下するときがある。木の葉に見立てた眼のようなアーモンド型の紙に実際に眼をプリントする。表には開いた眼を、裏には閉じた眼を。それが回転しながら落下するとまばたきをしているように見えるという作品。一年間でまばたきを何回するのかはわからないが、「木の葉が舞うというイメージ」と「まばたきするイメージ」が重なって、まばたきすることによって季節を早送りしているようなイメージも浮かぶし、自分が一本の木になって、自分自身から落下するまばたきを眺めることによって、カメラのシャッターを切るようにパチパチと、その場の景色を切り取って記憶していくのだ、という感じも受ける。繊細でノスタルジックなイメージが紙面からでも伝わってくる作品。

上に挙げたのはあくまでも一例にすぎません。全部で45の作品が実際の写真とイラストで紹介されています。このイラスト自体がすでに一つのアートである、と呼びたいほど素晴らしい。ファンタジックでかつロジカル。丸みをおびた線が柔らかい印象で、無印良品のCMとかにも使えそう。

そのアイデアの控えめな奇抜さ、アートの可能性の拡張、参加型による一体感。なぜ今まで自分は知らなかったのだと悔しい思いばかりが募るのですが、それでも本書をパラパラとめくっていると、不思議と優しい気持ちになるのです。

鈴木康弘HP http://www.mabataki.com/

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