西村佳哲「なんのための仕事?」


新刊が出たら必ず買い求め、ゆっくりと時間をかけて読み、その内容を吟味しながら自分の羅針盤を微調整する。西村佳哲の本を読む時には、自分を振り返る時間がいつもセットになっている。黙読を通じての自分との対話。今作も「仕事のあり方」とそれに付随する「人との関係」について書かれているが、まえがきには「デザインを通じて考える“仕事”のあり方」とある。


【内容紹介】
私たちが生きてゆくために、本当に必要なものは何だろう。お金?仕事?どちらも手段にすぎず、求めているのは“関係"なのではないか―働き方研究家の著者が考える“仕事のあり方"。

【目次】
第一章…自分は…
自分はここまで出来たと / 無数の小舟が海を渡る時代 / 出来ることを形に / デザインを何に使う? /どんな大人の姿を? / 自分で考えたことをやる / 機能はただの力

第二章…なんのために働くのか…
教育:どんな人間を?

●インタビュー:原 比呂志さん(オプスデザインスクール創設者)
一緒に遊び方を決めてゆける"原っぱ"を / 笑い合ったり、喜び合ったり /すっごい楽しいこと/ "自分たち"の仕事をつくる / 全体性の回復 / それぞれの責任

●インタビュー:西堀 晋さん(カフェ「efish」オーナー、プロダクト・デザイナー)
心があるかどうか / 気持ちのある仕事 / 時間と精神の余裕がある生活を /
なんのためのデザイン? / 共に生きるために

●インタビュー:福田桂さん(デザイナー、「まちの保育園」アトリエリスタ)
信じていることを まっすぐやっている人は眩しい / 具体的で身近なものに

●インタビュー:エフスタイル(五十嵐恵美・星野若菜)
うまく循環し始めたときが嬉しい / つくり手と / 売り手と / 二人で

第三章…出会いを形に…
生きてゆくためには/"関係"は自分のものではない/共に生きてゆくために/「出会う」ということ


第一章の約60Pを費やして自分の履歴を語ることから始まる。控えめな記述ではあるが、好奇心と偶然に素直に従った結果が今の彼の仕事につながっていることがよくわかる。学校に居場所のなかった高校時代。半不登校状態。それでもそのままくさらずに一人旅に出たり、「ぴあ」に掲載されていた自主映画の上映会に足げく通い、そこで新しい人たちと出会っていく。まさか大友克洋江口寿史と交流があるとは思わなかった。

流される、と書くと何だかマイナスのイメージだけれども、止まっているよりは流されても移動したほうがいいと思う。それは空間的な移動と精神的なものと両方だ。止まっているだけでは世界は広がらない、というかそこから抜け出せない。だからどんな手段にせよコミュニケーションの方へ向かうには移動するしかないのだ。そんなあたりまえことを読みながら思う。

彼の履歴を振り返りながら、深い思考の軌跡をたどっていると、自分で作る・発想する・具体化していくことが大切であることがよくわかる。そしてこの章の最後の記述。こんなスタンスで働く仲間がいたら幸せですよね。

【長いスパンの中で再現性が高くて、無理がなく、本人には能力として意識しにくいほど自然に作動していて、そうしていると安らぎや満足感を得やすい「はたらき」が、人それぞれ何かあるんじゃないかと僕は思う。では、それをどう扱って生きてゆこうか?】

第二章では、お得意のインタビューを中心に、働き方と生き方・関係することの考察をしている。4人のインタビューがおさめられているが、どれも自分の人生とはカスリもしない環境なので、先入観無しに読める。そしてその中から、いいと思ったエッセンスを抽出し、自分の仕事に照らし合わせてみる。この作業がすごく楽しいので、彼のインタビューを読むのがやめられないのだ。

インタビューの内容も充実していて、特にターニングポイントになった時期について、きちんと突っ込んで聞いているのがいい。その時の気持ち・決意・プラスとマイナスの要素・自分への問いかけ・逡巡・・・などが正直に綴られているので、当人を目の前にしているような親近感をもって読むことができる。この、対象に親近感を感じられるかどうかって、読書するポイントとしては大事だと僕は思います。小説で、めっちゃ主人公に感情移入しちゃいました〜とは別の意味で。まあどれだけ自分に引き寄せて読むか、ということです。

エフスタイルという女性2人で始めたデザイン会社のインタビューが特によかった。手探り状態で進み始めた最初から、全て自分たちでやったことの経路や、お客さんとのやりとり、失敗と再生、こだわり、などが丁寧に語られている。

ボスの要求に答えるのはすごく好き、でも「それが世の中にとってどうなの?」というところまで考えてしまって悩む彼女の真面目さに心打たれる。こんな台詞に。

【環境問題とか、広い視野でいろいろな社会の痛みを自分たちに引き付けて考えるような想像力は多分私たちにはない。だからこそ自分たちに出来ることをちゃんとしたい。】

【仕事でかかわる近しい人を傷つけたくないです。慣れてしまうことが、怖くないですか?傷つけることも傷つくことも。私はそれが一番怖い。自分の中のスイッチを切ったりブレーカーを落としていること。それは大人の階段を昇りきった人たちの寂しさだと思うんです。学生の頃は「やっぱりそういうのは嫌だよね」とか「違うよね」と言っていた人たちが、麻痺しないと生きてゆけなくなる。】

【大学に入る前に画塾に通っていたとき、最後まで完成させたデッサンが私には数枚しかないんです。描いている最中に完成形が見えるから飽きちゃって。それより、誰か他の人がつくっている荒削りなものを、自分がかかわることで輝かせるのが好きなんです。・・・プロデューサーでもないし、何だろうね・・・おせっかい。・・・そうだよね。「ちょっと私にやらせてみて」と言って、やって喜ばれるのはすごく好き(笑)。】

そして第三章で、出会いを形にすることについて語られる。お金の話、ソーシャルキャピタル(この言葉はあまり好きじゃないです、僕は)についても言及されている。

さらに、人の話を聞くこと、いや「きき合える関係性」がある組織は、アイデアが豊富で健やかな場になるだろうと書いてあるが、本当にそう思う。というかそんな場で働いたことがない気がする。自分が気づいてなかっただけかもしれないけれど。

【お金は要らないということではなくて、その作用を自覚しておきたいし、「関係」と「お金」の主客の転倒を間違えてはいけないと思っている。】

上の引用にもあるけれど、僕自身もどう生きていくか、そして働いていくかを考えるたびに、「関係」と「お金」についてもいろいろ考えた。でもまだ明確な答えは出ない。しかし、何を優先するかのめどはたってきている。いっぱしになれなかったことへの言い訳かお前、という声も聞こえてきそうだが、やはり「関係」を優先したい。信頼できるコミュニティが自分の近くにあるほうがいいと思っています。そして結び。

【僕個人としては、納まりの悪い事実を味わいながらジタバタする自由を大切にしたい。具体的で身近な事ごとについて、その工夫を施してゆくことに自分の力を使うことができれば、さぞかし面白い人生になるだろうと思う。そうします。】


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