開く・愛でる・書きつける


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自分で古本を売っているので、仕入れてきた本の間にいろんなものが挟まっていることが多い。

書店や出版社が作った紙の栞・レシート・名刺・メモ・映画や美術館の半券・飛行機の搭乗券・特急の乗車券などが多い。恋人らしき人からのメーセージがはさまっていることもある。

そんな時は、どんな気持ちで本をプレゼントしたのだろう?もう別れちゃったのかな?贈られた彼はこの本を全部読んだのだろうか。なんて想像が膨らむ。

本のページを覚えておくためのシンプルなアイテムであるにもかかわらず、そこにはたくさんの流れた時間が刻まれている。その本を読んだ場所・時間・状態がたった一枚の紙に転写される。ある意味、本は、栞という役割を通じた過去が眠るベッドのようなものかもしれない。

そんな栞だけど、材質も種類もたくさんあって、僕もいろんな栞を購入しては使ってきた。ページの上部にチョコンとはさむやつ、薄い鉄製で眼鏡をモチーフにしたもの、紐の先にブロンズの猫と鞠がぶら下がってるもの…本当にありとあらゆる栞を使いました。本が変わるたびに栞も一緒に引っ越して、新しい部屋に住まう。そんなイメージ。

ただ自分の性格からして、一冊の本を読み終えたら次を読む、ということができない。いつも複数を並行に読む。だからある本にはメインの栞がはさまり、他の本には帯を半分に折ったものがはさまっている、という具合だ。

となると、メインの栞がはさまっていない本を読む時に、何か引っかかりを感じるのだ。これは性格上のことだと思うけど、せっかく好きな栞を持っているのだから、つねにそれを使いたいという欲求がある。

ならば複数購入して、全てにそれをはさめばいいじゃない、簡単なことでしょ?なんて声が聞こえてくるけど、実際にそれもやってみた。しかし今度は、栞の存在感が大きくなりすぎて、それはそれで落ち着かないのだ。

例えば3冊の本を床に置いて、その上に各栞をのせる。その絵面が何だか重くて「栞」というささやかな存在と本とのバランスがくずれてしまうような気がするのだ。ブツとしての存在感が主張されすぎるというか…。これが1冊ならなんとかバランスがとれているような気がするのだけど…まあただの変わり者なだけかもしれません。

そんな時に、絵描きのアケミックスさんと知り合い、栞の絵を描いてほしいと依頼したのが始まりで、先に上げた僕の落ち着かない気分は一気に解消されることになる。

普通の紙に絵が描いてあるだけのもの。厚紙よりやや薄く、簡単に折れ曲がってしまうもの。裏は白いまま。縦長。

出来上がってきた時は本当に嬉しかった。そうするとどんどん妄想が広がっていき、おっ!これ鉄製にしたらどうだろう?とか、クリスタルのプラスチックもいいかもよ、いやいや薄い銅板に型抜きとか?などと思って、実際に作ってくれる業者なんかも探していたのだけれど、それをやったら結局また落ち着かなくなっちゃうだろうと思ってやめている。

形を変えたり、デザインに凝ってもうちょっと存在感をアップしようかなーとも考えたのだけど、読みさしの本を開く、そこにお気に入りの絵が密やかな存在感で目に入ってくる、以上。このぐらいの雰囲気がいいのかなと思っている。枠を入れているのは、僕が自分でカットするための糊代みたいなものでもあるし、本を開くとほらっ、額の中に絵が入っているのだよ、絵を見たね、じゃあ続きを読もうか、という意味合いでもある。

裏が白いままだと少し物足りないと思うこともあるけど、例えばあるカップルがいて、待ち合わせの喫茶店で彼が本を読んでいる。彼女がやってきて、何読んでるの?と彼の手もとをのぞき込む。その時にはさまれていた栞を見つけて、あっ何これ可愛い、あたしにちょうだいよぅ、なんて言う。ダメだよ、俺どこまで読んだかわからなくなっちゃうじゃん。じゃああたしのと交換しよう。しょうがないなあ、はい。あっ、ちょっと待って、と彼女は自分の栞に何か書きつける。

「あたし…なたと…ずっと…………愛を………」

ここから彼の怒涛の人生が始まるのですが、そんな妄想はどこまでも続いてしまうので(彼は途中で「彼」という活字になって日本中の本の中を旅することになる…)やめますが、つまり、何かを書きつける行為が栞には似合っているんじゃないかということが言いたいだけです。ええ。失礼しました。

そんなこんなですが、絵が描ける人は自分で栞をデザインするのもいいかもしれませんよ。それが増えて、たまたま古本屋で手にした本の間にはさまっていた栞が良かったら、本を買った人はそれをまた使うでしょうし。単なる宣伝ではない、しかし本にとってはかかせないパートナー。ささやかな存在かもしれないけれど、絵を携帯することの喜び。僕にとっては壁に飾られた大きな絵と比べても一歩も引けをとらない存在なのです。

描いてくれた3人の女性たちへ最大の感謝と、押しつけの愛をこめて。本当にありがとう。


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