Dice Behind Your Shades
ここ数日のこと。数ヶ月前から賽は投げられている。背水の陣、いや一人だけの決起。何に対して?いや人生に、未来に、物質的に堆積しなかった過去に、歪んだ精神に。捨てたあらゆる思い出に対しての決起。あらためて。賽は投げられた。転がれ、何なら止まるな、出た目を見るのは怖いじゃないか。
Amazonから本が届く。3冊。精神分析医の記した女たちの回想・精神分析の大家の伝記・そして精神分析医たちが特に高く評価しているアルコール依存に苦しんだ作家の小説。偶然に関連のある3冊になった。なぜ今これらの本が読みたくなったのかわからない。生きることに消極的になっていた自分に対して、無意識が抗議した結果だろうか。
ポンタリス「彼女たち」は昔さらっと読んだときには何も感じ入るところはなかったが、今回ゆっくり読んでみると面白い。精神分析医の逡巡が手に取るようにわかる。彼もとまどっている、困って途方に暮れている。その職業とはうらはらに、その時の感情に振り回されているプレイボーイ。沢山の女たちが彼の元を通り過ぎる。控えめな文体ではあるが、やってることはダイナミックだ。
・・・「でも坊や、情感なんて警戒しなきゃだめ。人生はただでさえこんがらがっているのに、余計に複雑になるだけよ。」・・・
結局行き着くところは性愛なのだ。ある女性に言われた上の一文が本書のキャッチコピーになっている。女たちとの逢瀬が人生の羅針盤をくるくる回す。
他の2冊はこれから読んでいく。「フロイト伝」の文体がスピーディで波長がばっちり合う。楽しみだ。デュラスは筑摩か河出文庫で全集出せばいいのに。ファンも多いから売り上げも見込めるのではないか。
新しくバイトを始めたのだけど、自由に携帯を見れる仕事ではないので時計が必要になった。腕時計。自分にとってはアウトドアの飯盒くらい興味がないアイテム。100円ショップでいいやと思っていたけど、一応店をのぞいてみる。様々なブランドからいろんな時計が出ていて、価格帯も自分が想定していたものより安い。たくさんの時計を眺めていると、時刻を知るアイテムというよりは、美的なひとつのプロダクト、ブツとしての美しさを感じるようになる。
以前たまたまネットで見たロレックスのグリーンの時計、これなら欲しいかもと思ったことがあったが、時計に60万使うなら絵を買うに決まってるじゃんと思ってスルーしていた。
そんなことを思い出しながら店内を物色していて見つけたのがズッカの時計。あの細いベルトのシリーズが一時期流行ったよなぁ。たしか友達もつけていたはず、なんて思いつつ試着。
昔のプロペラ機をモチーフにしたというこいつに決める。まさしく不時着寸前の俺の人生にピッタリじゃないか。ボロボロの機体ではあるがまだ飛んでいる。金髪チンチクリンパーマから黒髪に戻しておっさん臭さにまみれながら幼稚な駄文を垂れ流している俺だが、まだ一応飛べていることを考えると、もしこの先人生が好転してそのままあの娘とパリまで行ける可能性があるなら、それまでの伴侶になってくれよ。おそらく使うことのないワールドタイムの表示はパリをトップに合わせておくからさ。
埃まみれのホットサンドメーカーを引っ張り出し萎びた食パンにハムトマトチーズを挟んでスイッチオン。すっかり自炊癖のついた俺だが、バイト先の昼飯はオール弁当にするのだ。手頃にできるサンドウィッチがいいだろうと思っていたら、結婚式の引き出物でカタログから選んだこいつが家にあったのを思い出した。試しに使ってみればバッチリで美味い。スイッチを入れて頭でもセットしている間に出来上がる。手っ取り早く経済的でゴミも少ない。何て素晴らしい!!
うちにはTVがない。以前はあって、だらだらと何時間も見ていたものだが、無くても平気になった。代わりに、晩ごはんを食べながら映画を見る習慣がついて、まとめて借りてはひたすら観ている。
「セリ・ノワール」はジャケットが気に入って借りた一作。見たところ3枚目の訪問販売員が女絡みで事件に巻き込まれ殺人までして、人生の歯車が狂っていくというお決まりの物語。あとで知ったのだが、原作はジム・トンプスンで脚本がジョルジュ・ペレックだった。
とにかく主役の男がいい。風変わりで神経症的な匂いがプンプンする。寂しい目をしていて、時折見せる表情にグッとくるのだ。初めてスティーブ・ブシェーミを見たのは何の映画だったか忘れたが…「レザボアドッグス」か「ミステリートレイン」のような気がする…似たインパクトがあって一発でファンになった。特に素晴らしいショットがあるわけでもないのに引き込まれて目が離せなかった。設定はいろいろとゆるいのに、画面がシャープで、舞台や景色はカウリスマキの映画のようだった。荒涼とした景色に、人情とか極端な愛情、人の存在感で光を灯すような絵面がよかったのかも知れない。他の出演作などまだ調べていないが、俄然彼に興味がわいてきた。
三池崇史・石井隆の作品も集中的に観ている。「ヌードの夜」は初めて見た。男と女のめんどくさい物語。竹中直人の存在感はやはりいい。そしてなんと言っても若き椎名桔平のキレ具合が最高。もうメジャーになってしまったけど、このラインで突っ走って欲しかったな。名美を演じた余貴美子が本当にイヤな女で、こんな女に惚れたら命がいくつあっても足りないぜ!という典型。
そして同じ流れで「GONIN」を観たかったがレンタル中にて、女番の「GONIN2」を観る。カメラアングルやスロー、ストップの使い方が印象的。夏川結衣と喜多嶋舞が演劇書き割り口調でセリフをいうシーンも変化があって面白い。若き夏川結衣と喜多嶋舞のチャーミングさ、そして歳を重ねた余貴美子の堂々たる存在感、松岡俊介の頼りない声とふらふら落ち着きのない動きなど見所たくさんで、過去に2回ほど観ていたのに充分楽しめた。
三池崇史「探偵物語」は猟奇的モチーフの中にもコミカルさがあって、一筋縄では行かない作品になっている。とにかく中山一也の存在感とすっとぼけた雰囲気が抜群の真木蔵人、そして長谷川朝晴の熱演に吸い込まれる。余談だけど、映画の中で中山一也が着ているショットの革ジャンがすこぶるカッコ良くて真似して買いましたね当時。彼の着ていたのは限定品だったので手に入らなかったけれど、その時買った白い革ジャンは今でも大切に着ている。革ジャンはコスパがいい、流行りすたりもあまり関係ないし。
精神の谷は底が見えない。だから心配して立ちすくむよりジャンプしたほうが早い。ジャンプしてしまえば後は祈るだけだ。やることはシンプルに限る。(サクレ・グランボナール)
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