「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」坂口恭平

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ある日突然に仕事を首になり、同時に家も追い出されたらどうだろう?まずは貯金をくずし、新しい部屋を借りることから始めるだろう。ではそのお金がなかったら?頼れる親や友人が一人もおらず、文字通り無一文でほっぽり出された状態に陥ったら?おそらくパニックになり、次のアクションをすぐにとることができず、無理やり2、3日野宿した後に自殺を考えるかも知れない。少なくとも僕はそういう思考回路だ。

本書は建築家である著者が、ホームレスをリサーチし、その具体的生活を記したものだ。無職、無一文で都会のど真ん中に立っているところから始まり、どこに住むのかを決め、実際に家を建て、食事や衣服を確保し、仕事を作り出し、生きていく。その過程があますとこなく記述されている。

僕はずっとホームレスに興味があった。面白半分のところもあるし、いつかは自分が…という可能性が全く無いとはとうてい思えなかったせいもある。だから実際に彼らがどういう生き方をしているのかを具体的に知りたいと思っていた。ホームレスもそうだけど、アメリカヒッピーのコミューン、その自給自足の生活にも興味があったのでその両者がごっちゃになっていたのは事実。端的に言えば、インフラを含む全てを他者や国家に依存しない自由な生き方の実践、について知りたかったのだ。

その欲求は本書によってかなりの部分みたされた。ほっぽり出されたレベル0状態から徐々に生活の糧を得ていく過程が詳細に書かれているからだ。

レベルアップしていくと0円で余裕
のある生活ができるようになる。もちろんその余裕というのは、普通に生活している人々の余裕とはわけが違うけれど。

本当に自分が必要なモノは何かを真剣に検討しないまま、インフラも含めていいなりにお金を払っている時とは違い、ホームレスとなり、レベルが上がっていけば、自分に必要なモノの総量を把握できるようになる。さらには完全な自由も手に入れられる。だから能動的にドロップアウトしていこうというのが著者の意見だ。ちょっと説教臭いけど、正論かな。

最後にちょっと長いけど、著者とホームレスの会話より。

「しかし、本当に0円で余裕のある生活ができるとは…夢のような話ですね」

「うん、こんなこと、社会主義の国ではぜったいできないよね。みんな等しく働かなくてはいけないんだから。これは資本主義だからこそできるんだよ。自由経済の社会だからこそ、お金を一番重要なものだと信じ込み、お金持ちと貧乏人というヒエラルキーができあがる。すると、貧乏人はかわいそうだってことで、助けてくれる人が出てくる。自分がヒエラルキーの中に入ったままだと、貧乏がコンプレックスになって、絶望してしまうかもしれない。でも、そのヒエラルキーから自由になった人にとっては、すごく楽なの。まあ、たいていの人は世間体とかを気にしちゃうから、こんな生活できないだろうけどね。でもね、この完全無職0円生活には束縛がない。代わりに完全な自由があるの。この生活を送ることは、自分の使命だと思ってやっています」

ソローの「森の生活」と併読するとよいかもしれませんね。


BGMは、どの曲ってのはないけどスティーライヒでどうだろう?

Steve Reich - Different Trains (Europe - During the war)