「親愛なるキティーたちへ」小林エリカ

この気候だと、熱にうかされたようにぽーっとなってしまい、衝動的に旅に出たくなってしまう。見知らぬ場所、人、ルール。そんなアウェイ感満載の状態で夜の街を徘徊、適当な飲み屋にしけこんで一人で居心地の悪い思いをしながら悪酔いし這々の体で安ホテルのベッドに倒れこむ。楽しいのかそうでないのかわからない宙ぶらりんな存在感でこの身ひとつ置き場のない状態に翻弄されたい。

小林エリカがヨーロッパに旅立つ。二冊の日記を携えて。ひとつはアンネの、もう一冊は亡き父の。

本書は基本的にすき間だらけの旅行記だ。知的好奇心を満たしてくれるわけでも、名所やそこに根付いた生活のルポがあるわけでもない。アンネと父と自分の日記がランダムに配置されるのみである。食い足りない感じ。何かが。そう思いながら読み始めた。

時々小林エリカの書いたスケッチが挿入される。車窓から見た景色や色々が。それは決してエンターテイメントに映らない走り書きのようなものだが味のあるシンプルなスケッチだ。そのまま読み進めていくと、彼女の旅行記よりも、アンネの日記からの抜粋が心に引っかかる度合いが高くなってくる。

「あらためてぐるりと心の向きを変え、悪い面を外側に、良い面を内側にもってきてしまいます」

そんなアンネの言葉に身が震える。つまるところ小林エリカは旅をする道程で今この瞬間に生きる媒介者となって二人とともにいる自分がどういう存在なのかを確認したいのではないか。そこから、アンネと父の魂を現在形に位置付けたかったのではないかと思うのだ。

この本はコンパクトなんだけど、本来もっと長く書かれるべき代物ではないだろうか、長くなればなるほど三人の人生のラインが交わり溶け合う。そんな状態で小林エリカはどこの街で息をしているのかを読み続けたいと思うのです。

How do you do you do you・・・


BGMは先日紹介させていただいた「あらかじめ決められた恋人たち」をリプライズ。よく見るとこのビデオクリップもすごいのです。
http://www.youtube.com/watch?v=IgLvx4Lx-RQ&feature=youtube_gdata_player

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