鈴木志保「ヘブン・・・」


この詩的さは、さざ波のようにゆっくりと心に到達する。もう何度も読んでいれどその印象は全く色褪せない。むしろその時々の状況によっていろんな形に尖った心をフラットにならしてくれる。優しさは単なる言葉上のものではなく、「優しさ」の概念そのものがまるっと手渡される。あ、俺弱ってるな。最近手渡されるという表現を多用してる気がする。


世界の果てのゴミ捨て場を守る少女・ベツレヘム。ぬいぐるみ・仔猫・ラブレター…思い出と共に捨てられたものたちの行方は?

【目次】
#0 ぜいたく姫とベツレヘム
#1 カモミールは上手に更新できる?
#2 Do you Love me?
#3 にゃんぽぽ1.2.3
#4 snow
#5 子熊のマーチ
#6 マリア
#7 しっぽとねずみ
#8 ひよこのおしり
#9 the tear
#10 ピパソング
#11 天国をでてゆく
#12 あけるべき多くのドア


目次に可愛らしいタイトルが並んでいて、それを眺めているだけでもファンタジックな香りが漂ってくる。

カモミールは上手に更新できる?」「にゃんぽぽ1.2.3」などの、きちんと像は結ばなくともある漠然としたイメージがバーっと広がるフレーズ。

その合間に「子熊」「ねずみ」「ひよこ」なんて愛らしい動物が入り、「Do you Love me?」「snow」「the tear」と英語のタイトルが配置され、ファンタジーの世界を深く潜って、心の先っちょに触れる印象がある。

そして最後の「天国をでてゆく」「あけるべき多くのドア」で潜った場所から一気に浮上して世界が開けてくる感じ。

ストロベリー、ブルーベリー、パイナップル、パームツリー、ソフトクリーム、ミュージアム、杏仁豆腐、タピオカと言葉をつないで、その後に「君の笑顔」と言葉を配置した浅井圭一の曲を思い出す。世界観とか全然違うけど。外枠だけね。

鈴木志保の漫画は、コマ割りからの大胆な逸脱と、短いセンテンスをつないだ言葉が詩そのものなのが魅力。特に、決めゼリフみたいな言葉と絵がばっちりハマった時の驚きったらない。

ストーリーを追っていくごとに次第に感動が高まっていくものもあれば、その一コマが突然出現することでいきなり鷲掴みにされるものもある。絵のパターンは無尽蔵にあり、白い紙に枠組みをはめず(ぞくにいうコマ割りね)ゼロから世界が立ち上がっていく。そしてそこに配されたキャラクターたちがゆっくりと、たどたどしくも世界を発見していく。

最初に読んだ時の衝撃ったらなかった。大胆すぎる構図や絵そのものは実際に見てもらうしかない。

まあでも例えばとあるページ。中央に大きな十字架が描かれている。十字架は塗りつぶされておらず、その中は空と雲の絵。そして「ああ いいなあ・・・紙キレ」「とるにたらない」「燃やしたら消えちゃう」というセリフが丸枠とともに空の上に描かれる。十字架の外側、余白部分には紙切れが何枚も舞い落ちている。そして十字架には鳥がとまっているのだ。

空と雲を一番奥だとすれば、その上にセリフが乗って二層。十字架は窓枠、安藤忠雄光の教会みたいで、そこに鳥がとまって三層。そして十字架、窓枠の後ろを紙が舞って四層。言葉で上手く説明ができないのだけれども、このありえない光景がとても美しい。

美しい音楽を聞いた時の、言葉にならない、うまく説明できない感動。それに近いものがある。古川日出男の小説、その登場人物たちが世界を発見していく描写、その断片、「サウンドトラック」のヒツジコが踊るシーンなども思い出した。岩井俊二の「花とアリス」や「スワロウテイル」のワンシーンも頭をよぎる。ひたすら優しく美しい物語。

そして最後の「あけるべき多くのドア」そのラストのセリフ。

それ 開けてかなくちゃね
生きてくとかって
たぶん
そゆこと
many doors to open
girls 勇気をだして

言葉だけでは伝わらないと思います。ぜひこの奇跡の表現に触れてみて下さい。


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