山本美希「Sunny Sunny Ann!」

前作のサイレント漫画「爆弾にリボン」がとても良かったので、この本が出ると知ったときにはかなり嬉しかった。また一人追いかけたい作家ができた。

水色の背景に赤い文字のタイトル。決して美人ではない女性のアップ。表紙のインパクトは大きい。外人にも日本人にも見えるその女性の名前はAnn。何となくイタリアや南米あたりの、映画などで見たお尻の大きな女性を想起させる。ラフなスケッチのような絵は、一瞬、黒田硫黄羽生生純を思い出したがそんな印象はすぐに消える。

とにかく全体的にラフな感じでそれがいいのだ。太い線はサインペンでささっと描いたような印象があるが、そこがいいのだ。コマ割りの線すらフリーハンド...多分...で描かれている。細密な絵による感動とはあきらかに違う。それこそラフなだけに細かいことを気にしない楽さがある。描き込んでない分だけ、絵を見た一瞬の印象が大事だけど、曲線がすごくきれいで動きがきちんと表現されている。ワンピースやハンカチのはためく感じ。男と寝ているときの肉が押しつぶされている感触。人物も背景も、つねにそこには風が吹いているような印象を受ける。鋭角的な線や図形にはない魅力があふれている。

アンは車で生活している。勝手きままなデラシネ。金がなくなれば知り合いと寝て、金が入ればワインや本やドレスを買って、車の横でそれを味わう。

彼女の客でもある、いつも行くコヒーショップのマスターは言う。「でもそんな生活、そう続かないだろ。そろそろ家を持つこと考えたら?暖かい部屋に家具をそろえてさ、落ち着くよ。」それに対して彼女は答える。「うーん。そう言われてもよくわかんないのよねぇ。車も同じでしょ?ベッドはシートだし、食卓はボンネット、タンスがわりのトランクもあるし、十分快適よ。それに...車なら、好きなとき好きなところにひとっ走りよ。これすごくミリョク的なことじゃない?」

そんな風来坊の見本のような台詞を言うアンだけど、家というものに対してまったく心が動かないわけではない。それはちょっとしたコマのなかにも表現されている。途中、事件があり、アンは姿を消す。そして何日か後にまた戻り最後のお願いをマスターの家族にする...

連作が5つ入っていて、上の紹介は最初の1話目。そこから別の出会いがあり別れがあり通りすがりの交流があったりする。自らひとりでいることを選んでいるアンだからこその振る舞いが随所に出てきて、それが心地いい。

最後にアンはどうなるのか、デラシネの生活に終止符を打つのか、それとも一人を選んで旅立つのか。それは読んでのお楽しみです。エピグラフにある大島弓子の引用も、読後に窓の外の景色をつい眺めて、遠い目をしてしまうには十分な台詞です。是非この世界観を楽しんでみて下さい。



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