小川洋子「ホテル・アイリス」

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ出してくる…。少女と老人が共有したのは滑稽で淫靡な暗闇の密室そのものだった―芥川賞作家が描く究極のエロティシズム。

小川洋子の持ち味がいかんなく発揮された美しい物語。

美少女の前に突然現れた初老の翻訳家。その男が発した「黙れ、売女」という言葉。それを<こんな美しい響きを持つ命令を聞いたことがない、とわたしは思った。冷静で、堂々として、ゆるぎがない。「ばいた」という言葉さえいとおしいものに感じられた。>と思う少女は数日後に、偶然老人と再会し、その危険な関係は始まることになる。

結局ここに描かれているのは老人と少女のSM関係だ。美しさとは無縁の世界といっても間違いないだろう。しかし丹念に読み進めていけばいくほど、糸のように細い硝子細工で編まれたような世界が立ち上がってくる。繊細で、抑制がきいていて、かつ大胆な描写。暴力的な描写の後に、少女の得た感覚が並べられ、それが美しさを醸し出している。老人の情報はあくまでも少しにとどめ、ホテル・アイリスを中心とした風景の中に存在する少女と、その少女の鋭敏な感性を丹念に描くことで、小説世界のほぼ全てを構築してしまうこと。

幻想的な風景の中に突然割って入る生々しい感覚。そのバランスが素晴らしい。香りだけが辺りに漂っているような余韻の積み重ね、気配、それ以前の予感、微かに存在している何か。

少女特有の感覚も描かれているが、それすらもストレートにではなく、何か美的なものでコーティングされている。ある意味老成している少女の感性に、「老女予備軍としての少女」という矢川澄子の言葉を思い出した。ぜひ「薬指の標本」と合わせて読んでみて下さい。

しかし文庫版の表紙はあまりにも美しい。

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

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