Some voices in my mind


言葉以前の地面の底から
いろいろな花が咲きますねぇ
(北爪満喜「蜂蜜を持って 青空の下」)



pw30の当番も終わり一安心しているところに一難がやってくる。愛の不在と有罪そして無罪。激情のコーティングが何層にもわたって木霊する。「お前はたった一人ですらその存在をまるごと受け入れられないのか?」人の要請に応えることこそが自分の快楽に直結するという専用の神経回路が存在するならば、その回路だけ別注して太いものに変えたい休日の午後。

ばたばたしているうちに時間だけが経っていく。アルバイトも1週間が過ぎ次第に慣れてきた。20代中心の職場に40のおっさんが紛れている構図。コメディ映画の登場人物にでもなりきらないとどんどん心の空気が抜けてしまいそうだ。

【最近図書館で借りたもの。】

「あなたまかせのお話」レイモン・クノー。映画ばかり観ていたら長編小説を読む時間がなくなってしまったので、評判の高いクノーの短編集を。出だしからかっ飛ばしている「サリー・マーラ全集」すらまだ読んでいないという体たらく。

「人の道御三神といろはにブロガーズ」笙野頼子。フリーダムな毒舌隊にまみれたくて借りた。巻末の日記部分に軽く目を通す。ギスギスした音が聞こえる。

「崖っぷち」フェルナンド・バジェホ。ラテンアメリカの小説世界に染まりたくて借りた。「あらゆる既成の価値観を容赦なく否定する作品群」という紹介文に惹かれた。罵詈雑言レベルが散りばめられていることを願う。

「人生の100のリスト」ロバート・ハリス。日常のタスクリストを思い切って改定するにあたり、参考にした一冊。読み物として面白く、早熟であるほど可能性は増えるのかなぁ、などと思う。リストと銘打ってあるが、その時々の流れに身を任せながら流浪している、旅本の趣き。ぜひ若い人に読んでほしい。

「God says I can't dance」ティポグラフィカ。なぜかこれが図書館に置いてあったので奪い取るように借りる。菊地成孔のスーパー超絶技巧変拍子バンド。

ヤプーズ計画」ヤプーズ。名曲ラブ・クローン聞きたさに手に取る。歌い出しのトーンが低すぎて驚いた。記憶なんて曖昧だ。「培養液、羊水の中、美しく眠る君」の語感が素晴らしい。

【そしてTSUTAYAで映画。】

陽気なギャングが地球を回す」…原作ラブな方々には絶不評な映画だけど、ご飯食べながら観る分には、豪華な俳優人やスピード感、キッチュな衣装、大沢たかおの絵に描いたように完璧な髪型など楽しめた。鈴木京香はあまり好きではないが、この作品の彼女はとても魅力的で美しい。

「007慰めの報酬」…マチュー・アマルリックの気狂い寸前の表情が観たくて借りたが、中途半端なカエルみたいな顔つきで残念。アンドロイドみたいなダニエル・クレイグだが、これはセクシーなのだろうか?ブルーの瞳は地軸のずれたガラス玉みたい。内容はいつもの感じで安心して観れる。

キラー・インサイド・ミー」…マイケル・ウィンターボトムの映画が観たくて借りたが、実に微妙。俳優陣はいいと思うのだが、ストーリー展開が単調で怖さが半減。コーエン兄弟タランティーノだったらもっと過剰な演出もしくは引き算しまくりで面白かったろうな。

連詩pw30への参加はすごく刺激になった。自分でゼロから生み出すことには変わりないが、連詩の特性上、石山から石を削り出すところから始めるのではなく、あらかじめたくさんの転がっている石を使うことも可能だ。バトンを渡してくれた人の詩に繋ぐ、全体を貫くトーンからインスピレーションを受ける、幾つか出てくるキーワードを拾って自分なりに展開するなど、様々なやり方で自分の詩を作ることができる。僕の場合は出だしは前者から、床板は一番目の詩から、映像的なイメージの断片は映画(天使に扮したナスターシャ・キンスキー!)とPV(ピーター・ガブリエルのライブ、Come talk to meの演奏時に、電話ボックスの中から電話のコードを体に巻きつけながらなんとか這い出て来て、虚空の誰かに向かって必死に手を伸ばしているシーン)と何人かの詩に出てきたキーワードをミキサーにかけて出てきたものを使った。それを最後に再生して言語化する、という変な手順を踏んだ気がする。とにかく面白かったです。


もうすぐ完結!! http://togetter.com/li/356650


あなたまかせのお話 (短篇小説の快楽)

あなたまかせのお話 (短篇小説の快楽)

人の道御三神といろはにブロガーズ

人の道御三神といろはにブロガーズ

崖っぷち (創造するラテンアメリカ)

崖っぷち (創造するラテンアメリカ)

人生の100のリスト

人生の100のリスト

God says I can't dance

God says I can't dance

ヤプ-ズ計画

ヤプ-ズ計画

キラー・インサイド・ミー [DVD]

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Dice Behind Your Shades


ここ数日のこと。数ヶ月前から賽は投げられている。背水の陣、いや一人だけの決起。何に対して?いや人生に、未来に、物質的に堆積しなかった過去に、歪んだ精神に。捨てたあらゆる思い出に対しての決起。あらためて。賽は投げられた。転がれ、何なら止まるな、出た目を見るのは怖いじゃないか。

Amazonから本が届く。3冊。精神分析医の記した女たちの回想・精神分析の大家の伝記・そして精神分析医たちが特に高く評価しているアルコール依存に苦しんだ作家の小説。偶然に関連のある3冊になった。なぜ今これらの本が読みたくなったのかわからない。生きることに消極的になっていた自分に対して、無意識が抗議した結果だろうか。

ポンタリス「彼女たち」は昔さらっと読んだときには何も感じ入るところはなかったが、今回ゆっくり読んでみると面白い。精神分析医の逡巡が手に取るようにわかる。彼もとまどっている、困って途方に暮れている。その職業とはうらはらに、その時の感情に振り回されているプレイボーイ。沢山の女たちが彼の元を通り過ぎる。控えめな文体ではあるが、やってることはダイナミックだ。

・・・「でも坊や、情感なんて警戒しなきゃだめ。人生はただでさえこんがらがっているのに、余計に複雑になるだけよ。」・・・

結局行き着くところは性愛なのだ。ある女性に言われた上の一文が本書のキャッチコピーになっている。女たちとの逢瀬が人生の羅針盤をくるくる回す。

他の2冊はこれから読んでいく。「フロイト伝」の文体がスピーディで波長がばっちり合う。楽しみだ。デュラスは筑摩か河出文庫で全集出せばいいのに。ファンも多いから売り上げも見込めるのではないか。

新しくバイトを始めたのだけど、自由に携帯を見れる仕事ではないので時計が必要になった。腕時計。自分にとってはアウトドアの飯盒くらい興味がないアイテム。100円ショップでいいやと思っていたけど、一応店をのぞいてみる。様々なブランドからいろんな時計が出ていて、価格帯も自分が想定していたものより安い。たくさんの時計を眺めていると、時刻を知るアイテムというよりは、美的なひとつのプロダクト、ブツとしての美しさを感じるようになる。

以前たまたまネットで見たロレックスのグリーンの時計、これなら欲しいかもと思ったことがあったが、時計に60万使うなら絵を買うに決まってるじゃんと思ってスルーしていた。

そんなことを思い出しながら店内を物色していて見つけたのがズッカの時計。あの細いベルトのシリーズが一時期流行ったよなぁ。たしか友達もつけていたはず、なんて思いつつ試着。

昔のプロペラ機をモチーフにしたというこいつに決める。まさしく不時着寸前の俺の人生にピッタリじゃないか。ボロボロの機体ではあるがまだ飛んでいる。金髪チンチクリンパーマから黒髪に戻しておっさん臭さにまみれながら幼稚な駄文を垂れ流している俺だが、まだ一応飛べていることを考えると、もしこの先人生が好転してそのままあの娘とパリまで行ける可能性があるなら、それまでの伴侶になってくれよ。おそらく使うことのないワールドタイムの表示はパリをトップに合わせておくからさ。

埃まみれのホットサンドメーカーを引っ張り出し萎びた食パンにハムトマトチーズを挟んでスイッチオン。すっかり自炊癖のついた俺だが、バイト先の昼飯はオール弁当にするのだ。手頃にできるサンドウィッチがいいだろうと思っていたら、結婚式の引き出物でカタログから選んだこいつが家にあったのを思い出した。試しに使ってみればバッチリで美味い。スイッチを入れて頭でもセットしている間に出来上がる。手っ取り早く経済的でゴミも少ない。何て素晴らしい!!

うちにはTVがない。以前はあって、だらだらと何時間も見ていたものだが、無くても平気になった。代わりに、晩ごはんを食べながら映画を見る習慣がついて、まとめて借りてはひたすら観ている。

「セリ・ノワール」はジャケットが気に入って借りた一作。見たところ3枚目の訪問販売員が女絡みで事件に巻き込まれ殺人までして、人生の歯車が狂っていくというお決まりの物語。あとで知ったのだが、原作はジム・トンプスンで脚本がジョルジュ・ペレックだった。

とにかく主役の男がいい。風変わりで神経症的な匂いがプンプンする。寂しい目をしていて、時折見せる表情にグッとくるのだ。初めてスティーブ・ブシェーミを見たのは何の映画だったか忘れたが…「レザボアドッグス」か「ミステリートレイン」のような気がする…似たインパクトがあって一発でファンになった。特に素晴らしいショットがあるわけでもないのに引き込まれて目が離せなかった。設定はいろいろとゆるいのに、画面がシャープで、舞台や景色はカウリスマキの映画のようだった。荒涼とした景色に、人情とか極端な愛情、人の存在感で光を灯すような絵面がよかったのかも知れない。他の出演作などまだ調べていないが、俄然彼に興味がわいてきた。

三池崇史石井隆の作品も集中的に観ている。「ヌードの夜」は初めて見た。男と女のめんどくさい物語。竹中直人の存在感はやはりいい。そしてなんと言っても若き椎名桔平のキレ具合が最高。もうメジャーになってしまったけど、このラインで突っ走って欲しかったな。名美を演じた余貴美子が本当にイヤな女で、こんな女に惚れたら命がいくつあっても足りないぜ!という典型。

そして同じ流れで「GONIN」を観たかったがレンタル中にて、女番の「GONIN2」を観る。カメラアングルやスロー、ストップの使い方が印象的。夏川結衣喜多嶋舞が演劇書き割り口調でセリフをいうシーンも変化があって面白い。若き夏川結衣喜多嶋舞のチャーミングさ、そして歳を重ねた余貴美子の堂々たる存在感、松岡俊介の頼りない声とふらふら落ち着きのない動きなど見所たくさんで、過去に2回ほど観ていたのに充分楽しめた。

三池崇史探偵物語」は猟奇的モチーフの中にもコミカルさがあって、一筋縄では行かない作品になっている。とにかく中山一也の存在感とすっとぼけた雰囲気が抜群の真木蔵人、そして長谷川朝晴の熱演に吸い込まれる。余談だけど、映画の中で中山一也が着ているショットの革ジャンがすこぶるカッコ良くて真似して買いましたね当時。彼の着ていたのは限定品だったので手に入らなかったけれど、その時買った白い革ジャンは今でも大切に着ている。革ジャンはコスパがいい、流行りすたりもあまり関係ないし。

精神の谷は底が見えない。だから心配して立ちすくむよりジャンプしたほうが早い。ジャンプしてしまえば後は祈るだけだ。やることはシンプルに限る。(サクレ・グランボナール)


フロイト伝

フロイト伝

彼女たち

彼女たち

ロル・V・シュタインの歓喜

ロル・V・シュタインの歓喜

GONIN [DVD]

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探偵物語 [DVD]

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セリ・ノワール [DVD]

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死ぬほどいい女

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人生使用法 (フィクションの楽しみ)

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ミニマルな闘いの連続でさ。

何かひとつのテーマについて書こうと思えば思うほど何も書けず、ブログの更新が疎かになってしまう。なので、特別に書きたいことが浮かばない時は、小学生の日記のように、一日に起きた出来事を記述するというスタイルをとってみよう。そして更新頻度を増やしていこう。

いろいろあって休日。昨夜の悪夢が思い出せない。覚えているのは、人前で携帯電話が鳴った時にすぐ消音しないと携帯電話から無数の針が飛び出してきて唇をズタズタにしてしまう、ということだけ。確かストーリーがあったような気がする。そのワンシーンだけ記憶に残った。

朝食兼昼食に、目玉焼きとツナマヨチーズトーストとヨーグルト、そしてコーヒーと煙草。ガス入りの水を常飲するようになってから、あれだけ大好きだったコーラを飲みたいという気持ちが無くなった。同じ炭酸ってことで満足しちゃってるのかも。サンペレだったら一本60円程度でAmazonで売っているので便利。わざわざ重い思いしてスーパーで買わなくていいので楽ちん。やっぱり食品とか日用品はネットで買うようになったなぁ。

図書館で借りたものは本2冊とCD2枚。

いちばんここに似合う人ミランダ・ジュライ
アナイス・ニンの少女時代」矢川澄子
「As Time Goes By」ブライアン・フェリー
「ザ・フォール」ノラ・ジョーンズ

ミランダは一度読んで手放したけど、あらためて精読してみたいと思ったから。矢川澄子のこれは買おう買おうと思っていたけど、ふと棚にあったので衝動的に。

先日ウォン・カーウァイ「マイブルーベリーナイツ」を観た時に、役者として出演していたノラ・ジョーンズがとても良く、彼女の曲はいろんな場所で耳にしてはいたけれど、まじめに聴いたことが無かったので借りてみた。その映画を観ている最中様々なシーンで、ブライアン・フェリーのこのアルバムからの曲が自然に再生されてしかたがなかったのでこちらも借りる。名盤です。

さらにTwitterで教えてもらった映画を借りにTSUTAYAへ。教えてもらったうちの2本しか置いてないので、心の中で悪態をついてから「息子のまなざし」を手にとった。ダルデンヌ兄弟の名前は知っていたが、観るのは初めて、楽しみ。

静かな夜。


いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)

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君とボクの虹色の世界 [DVD]

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アナイス・ニンの少女時代

アナイス・ニンの少女時代

インセスト: アナイス・ニンの愛の日記 【無削除版】1932~1934

インセスト: アナイス・ニンの愛の日記 【無削除版】1932~1934

ザ・フォール

ザ・フォール

As Time Goes By?時の過ぎゆくままに

As Time Goes By?時の過ぎゆくままに

息子のまなざし [DVD]

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連詩pw30「身投げする音」


身投げする音 声帯から耳管へ 耳管から脳幹へと身投げする音 海へと身投げする音 東京都庁45階から ダブルベッドから 身投げする音 線路へ 高濃度放射線の中へ 草いきれへ 微笑みへ あらゆる断崖から 未知へと飛ぶ音 無音の中へ身を投げる その1音
(身投げする音1・七尾旅人

ひとつの音。いくつもの動機、いくつもの死に方、いくつものやり直し。内側、外側。わかること、わからないこと。いのちの「無数」が最後はひとつになって、この地面だ。一緒に踊ってきた見えない体を投げる。次のステップに迷う可愛いおしりを叩くのはだれ?
(身投げする音2・福間健二

水晶の崖で少年の耳は稚い翼。飛翔と墜落のジグザグの記譜。見えない音の痛み。波立つたび母は、モデラート・カンタービレ、無音で唱える。船渠の島で、赤子みたいに鳴く海鳥の、皿形の巣を踏まないように歩く。「まだ終わってないよ」耳が読んだことばを声に出して言う。
(身投げする音3・バンバサナエ)

すってはいてすってはいて。しっかりとリボンを結んだ足首の、乙女の店の店員たちが吐き出す音。羽を呑み込まれた蝶は、ものともせずに踊る。からだ中に印された符が導くつま先。踊る理由はいらないよ。それなのに、今更ながら怖気づく。わたしならどうする?
(身投げする音4・はだおもい)

ヘビトンボの季節に五人の処女は次々に自殺する。仕組まれた、あるいは自分で仕組んだプログラム、この世の二重らせんの、際限もなく押しよせる波。笑顔の輝き、きみの眼差しの奥に隠された沈思、空を飛ぶ足首のくびれ。きみたちはきれいだ、きれいだ、きれいだ。
(身投げする音5・水島英己)

さあ、顔をあげる瞬間のさみしさに ブラシをあてなさい ねじを巻く日々のしずけさにも ブラシをあてなさい 飛ぶもののすべてが 太陽になってしまう境界は すでに玄関を焼きはじめている 壁のような瞳を愛する心で この路地の神様の袖口を 照らしてみようか
(身投げする音6・久谷雉)

そのとき僕ら炎に囲まれようと ふり返らないでいられるだろう ただの鳴りならやみもする ふたつの望みにまたがって遊び抜いた僕らなら もう肉は要らないな 騒がしいのはきまって向こうがわ 非知をてに 骨だけはぬかれないでいるから 君がすべてを拾えばいいさ
(身投げする音7・広瀬鈴)

遮断機がゆっくりと風景を切り取っていく
一定のリズムを刻む警告音に鼓動を掻き消されて
轢断される関係性に
ただ唇を噛んだ
行き過ぎる列車は観測上の密室を作り上げ
その後に不在と実在を問いかける
永遠に等しい 1分という隙間に
飛び込んだ 静謐を
(身投げする音8・二匹の猫は互いに同時に存在す)

遠い遠い理想へ身を投げる。飛翔する翼を持ち蹲る世界の精神。シュレディンガーは未だ来ない。ζ関数は風、自らの渦の中に輝く。あの星雲の果てに微笑む未来とhuman-logic。open-systemと輪転し、ドアを開くのは君。境界を超えるのは君。
(身投げする音9・宮岡絵美)

深夜25時の夜咄。痛みを失った少年少女。線路を抜ける風に心を運ばせ、セーラー服は揺れる。繋いだ手の間にあるのは悲しみなんかじゃない。だから、まだ大丈夫。悲しみだけの世界でないなら生きていける。踏み切りの音、祝福の鐘に、片手で掴んだ花束を投げつけて、
(身投げする音10・雨音)

17才 花束の畑を通りぬけ、蝉の羽溜まりがあり、靴を揃え 靴下をぬいでは 古い藤椅子に沈んだ。足首のリボンは揺れ 犬は眠り 唇はぷちんと破れた。「さよなら」と、17才はハーブティーの、セージをすすり 30匹の犬は 空の下 みんな茶摘みに行った。
(身投げする音11・みいとかろ)

足首の内側をごくごく叩いて泥のなかを羽ばたいて産んでいく丸い石がご家族は何人? 聞き取れなかった言葉をかぶれてうすくなった夏に細くふりまかれ途切れ途切れの火傷の痕がのびる空の下までカーブミラーをかけ登る道へ放り出されてはひとつひとつとこびりついていく
(身投げする音12・島野律子)

手紙です。その音に夏がよみがえる。死者たちの雲に風とひかりを集める。海峡を越えた家族が黒い磯に並ぶ。音を閉じ込めた壷。数万の舟に牡蠣の夢を沈めた入江。教室から始まる旅の音信は乳色に染まる。せめて、それを音となし、わたくしの内部を海で満たせ、と伝える。
(身投げする音13・小山伸二)

家族構成―母(充分)。祖父(秋のたよりをみつける)。私(多摩・武蔵野検定2級)、祖母(組織に属している)。弟(私)。叔父(情報過多)。
(身投げする音14・副羊羹書店)

どこぞのおとながおこられた。ダッシュで逃げた。新幹線より速い。あなたの声はやさしい。糸電話の振動が心地よくて、うとうとしてうっとりしながら眠る。 食卓メモ:ノックは三回 叫ぶのに許可はいらない かりんとうがもうない そりゃないぜBABY
(身投げする音15・ソコノロニコ)

横断歩道に気をつけて。朝顔のつるで首をつるこどもたち、幾らでもコーシンを繰り返す。夏休みはまだ終わらない。お祭りの金魚は一匹ずつ道に並べてあげた。ぱくぱく口をあけその身を打ち付けるので、僕と妹とは手をつなぎ、僕らの番を待っている。
(身投げする音16・ブリングル)

どこかに鱗はついている 肩をつかむ手を振り切り 藻の輝きをいつか見た 空になった蜜壺は土手に埋め 残ったものはひび割れた喉 何を歌おう 何を語ろう
(身投げする音17・金子彰子)

銀の針を飲み込み、涙をこぼす魚のように囁くことに疲れ、夜が明ける。いくつもの朝の後、口を閉ざした耳に、ひとのものではないことばが聞こえてくる。やせた木、夢にうなされる鳥と風。移動することのない石。
(身投げする音18・須永紀子)

銀の針で雲と風を編んだ夏休み。夜が明けると郵便受けにシアン色の封筒が届いた。白い便箋にワープロの文字で「いつかまた会おう」と声の聞こえない永遠の嘘が一行。
(身投げする音19・kojima_kimiko)

夜明け。最初の光が薄暗い空から、カーテンをくぐって私の瞼に身投げした。眩しい! 急に夢から出てしまう。私はだらりと両腕の垂れた少女を抱え、まだ夢の道に立っている。深く頷くと、道の石だと思っていた物が次々輝き、小鳥になって飛び立ってゆく。窓を開けよう。
(身投げする音20・北爪満喜

その先は空中。轟音と爆風が足元から突き抜ける。小型軽飛行機のドアは開け放たれ 一歩踏み出せば 飛び立てる? あの日の少女は暁に吸い込まれる。瞬間は無音。永遠の嘘が真実になるまで。いしは内側からゆっくりと 目には見えない速度で形を変えてゆく。
(身投げする音21・nontan)

水晶体の中を魚が泳ぐ。雨が降り、人はいつもより湿っている。キリンの真似に失敗した母は、台所で誤って舌を噛んだのだった。むかし住んでいた街の方から、フルヤマ薬局のシャッターが閉まる音が聞こえる。明日を生きるために、皆、身投げをするのに忙しくしている。
(身投げする音22・たけだたもつ)

そんな忙しい夢から覚めたら59歳。家族も薬局のおじさんもいない。まるで浦島だな。でも数日を過ごしてみると、どうやら今は高齢化社会で周りは年長者だらけだ。詩人会なんかまるで老人会。美しく老いた元少女やダンディな白髪元少年に励まされ僕は還暦にダイブする。
(身投げする音23・山田兼士)

熊がいる 停車の度に熊がゆれる 吊革に退屈をあずける制服の少女 彼女たちは なぜ熊を鞄に飼育するのだ 傘の先から雨の滴が 過去や踵や神様がかさなりあう床に浸水する さよなら御茶ノ水駅 警笛の合図で神田川にダイブ 裂けた縫い目から恋を満腹し 笑う熊
(身投げする音24・鈴木博美

笑顔は無数の糸で縛られ、溜息と咆哮のユニゾンで身をよじる通話口に血の花が咲く。背骨に落雷。カシャリと一度だけ音を立て組みなおされた世界のチャンス。今度は背中に耳を留めて、さあ、聞いてあげる。彷徨える楽隊が花の声帯に音の栞を挟む季節がやっと来たのよ。
(身投げする音25・佐藤幸)

救世主なんていない。すがる事の終焉。チャンスを逃さず瞬間移動。着地点はどこ?勇者の称号をうけた小柄な彼女の歌声。直球Lyricとダイナミズムの中で踊れ。グルーヴに乗っかる深夜のパーティ。ダンスホールに永遠の時を与えよう。レコードがまわる。
(身投げする音26・さいとう_みわこ_)

まわる地球の記憶。無音の中に震える音楽。気づけば軌道上でダイブしている。これ本番ですか。戦火、街明かり、震災、薬局の看板、雷雨の閃き、伝えるべき事は正確に。今日と全ての痛ましい記念日に、一輪のコスモスを。希望をふわっと胸に浮かべ、旅路に鼓動を刻む。
(身投げする音27・樹葉上的月光撒點)

朝焼けが、疲弊しきった心臓へ今日のノルマを突きつける。私の体はひとつしかないのに。ヘッドフォンからは「全て抱えて走れ」と叫ぶ歌声と「魂の回転数を上げろ」とうねるギター。音の水槽に身を委ね微弱な鼓動をコーティングする。ディストーションの飛沫が上がった。
(身投げする音28・陶坂藍)

音の海へ、夏の終わりの海へ、星の海へ。はるかかなた、大気圏から宇宙に投げ出されるシャトル。飛行士は鼓動だけを聞いている。子宮から、母から、身を投げたこの体が発した最初の音と同じ。命をひびかせて旅ははじまっていく。
(身投げする音29・林明乎)

あうんの呼吸で。2音目は受け止める音。ほら見あげてごらんよ。小さな粒星がつながりあって、巨きな星座のハンモックを仕掛けた。だれのしもむだにはしない。慎也のタオルもみつからない。うん。終わってないね。だって、この星は。Still  blue,まだ青い。
(身投げする音30・宮尾節子)

連詩に寄せて

Twitter上でいろんな詩人の方々が連詩をやっている。僕も好きで、読んでは感想を書いたりしながら楽しませてもらっていた。特にpw3という、詩人の宮尾節子さんがやっていた連詩が好きで(宮尾さんについての過去記事http://d.hatena.ne.jp/bookshelfind/20120425/1335313886)コメントのやり取りなんかをさせてもらっていた。

連詩pw3のまとめサイトhttp://togetter.com/id/sechanco

そしてこの度pw30という、30人で連詩をつなぐというお祭りがあるときいて喜んでいたのだが、何と宮尾さんからお誘いお受け...というかおこぼれかな...僕も参加することになり、今からドキドキしているのです。さらに連詩のトップバッターが、僕の大好きなミュージシャン七尾旅人であることを知り、さらにぶったまげたのです。

あらためてpw3のまとめを読んで、各人それぞれの言葉をスコールに打たれた気持ちで読みながら、「詩」ってつまるところ「言葉+α」だなぁ、でもその+αって何だろう?などと考えながら、自分の感覚を寄せてみたいと思い、pw3のまとめから連詩マイガール」を再度読んでみることにしたのです。僕が一番好きなのは「風の丘」なのですが、この「マイガール」のスタート、そのモチーフが僕とのことで、恥ずかしながら選んでみました。


マイガール】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)金星通過写真は。美しい文体のなかを、よい打ち場所を考えて移動中の、句読点のようだった。ホクロ美人のマリリンみたいに。かわいいひとよ。「佐藤幸っていうの。シュガー&ハッピーよ。大甘。でも、めちゃくちゃ名前負け」だいじょぶと私。「デザートはね、最後に戴く。」(マイガール1)#pw3t
sechanco 2012/06/07 05:55:43

※※自分の名が、自分では一生想起しないであろう言葉「金星通過写真」と並ぶことの嬉しさ。意味は?まずは気配を感じなさいよ。そうねわかった。ベタな名前遊びから「デザートはね、最後に戴く。」という、ラブストーリーの導入部のようなくすぐったさ。


(2)月夜の野辺でアカシヤの花を摘みその木の下でキンポウゲを摘みその下でワスレナグサを摘みその花束を水色のリボンで結んで彼に届けました。彼は昔少女の私の髪の上に花の冠をかけてくれた人です。ゆかしいひとよ愛しいひとよあなたの白い腕に花のブレスレッドを巻いてあげよう(マイガール2)pw3t
may_kojima 2012/06/08 06:14:13

※※摘み、摘み、摘みと3度発音することがスキップのよう。一転して「花束」と「水色のリボン」、その映像に洗われる心。彼に届けた?ん?僕に?女の子の発話なのね?そうかな?と思ううちに「彼は昔少女の私の髪の上に花の冠をかけてくれた人です。」勘違いもOK!タイムスリップで僕は誰に冠をかぶせているのだろう。「ゆかしい」「愛しい」の韻律を甘く唇で受け止めて、自分の白い細腕を眺める。ここに花が?


(3)もうすぐ 消える雲からやってくる 消えるアルパカ 消えるウサギ 消えるキリン 消えるゾウ 輪郭をむすぶことばのどこからか呼吸はそれらを形づくる 空にみつけるもうなくなっている一瞬 ひとすじ 雲が切れ 光が差すように少女の手がみえた (マイガール3)#pw3t
kitazume363 2012/06/09 10:43:30

※※流れて筋を作る雲が動物のシルエットで爽やかな。消えるのに輪郭をむすび、それが呼吸のように発される言葉で、でも雲は消える。そのイメージのアップダウンが楽しい。「空に見つけるもうなくなっている一瞬」のたたみかけは実際に口に出すとほんとに映像化されてくる不思議。動作が心を・心が言葉を・言葉が動作を。そして雲が切れ差すのは光ではなく少女の手だ。空をぬって超える空間。


(4)泣いてる少女の、なだらかな丘から、つぎつぎ降りてくる雨足が、みずたまりに水の花を咲かせている。いちりん、にりん、ひらく水輪(((君)))((((想))))(((((恋)))))言葉が、濡れて、涼しい。月をみて、日をみて、水をみて。あなたを あなただけを。(マイガール4)#pw3t
sechanco 2012/06/10 06:08:38

※※一枚の写真のように美しいブロック。これだけで独立して読んでしまう。なぜか緑・紫・蓮の花を想起。前ブロックまであった、ふわふわっとした感触の消滅。水の波紋、その表記の方法に!。言葉が、濡れて、涼しい。僕はこのブロックをまるごと盗んで、新千歳空港から札幌駅に向かう車中であの娘にメールした。だけど伝わらず頭をたれた、過去。


(5)噴水の上がる公園のカロライナジャスミンの繁みで、いま、生まれたひとがいる、それはだれ?なまえのないあなたよ、もう瞳をあげて、流れる水のなかを駆け抜けていく。水の精霊よ、少女よ。キラキラ光る産毛に、熱い熱い息がかかって(マイガール5)#pw3t
may_kojima 2012/06/11 06:38:41

※※人称不定のあなた。カロライナジャスミンの響き。産毛が気泡を産んで?熱い熱い息がかかったその後は?


(6)歩道。建設中のビル上に留まるクレーンの一本足のツル。何か作っている孤独なツル。歩いていると産毛にふれ、さっき見た絵の松の下から巨大なゾウが抜け出すと、やってきて鼻を高く伸ばした。私の隣でツルに合図。やあ。輪郭のゾウの息がかって、鉄骨の羽根が空で光って(マイガール6)#pw3t
kitazume363 2012/06/12 18:04:58

※※がらっと灰色のランドスケープが重厚なイメージを作って「アカシア」「キンポウゲ」「ワスレナグサ」「カロライナジャスミン」を土の下へ追いやって。ああ地鳴りが聞こえてきたぞ、いや象の鳴き声か?


(7)ぱぉーーんと。丸の内線も地下に潜ると、物哀しいゾウの声で鳴く。この都市が何でできているか。みな見て見ぬ振り、聞いて聞かぬ振りを。して。の棘に立ちすくむ。アナスタシア。貴女のよろこぶ顔が見たくて声が聞きたくて。羽根を抜いて、織りあげる言葉の。これ以上、何を(マイガール7)#pw3t
sechanco 2012/06/13 06:44:55

※※象が鳴いている、地下鉄の警笛に似た声で。反響が物悲しいのか。いきなりの「棘」は何?棘の冠?「羽を抜いて、織りあげる言葉の。」に宗教画をイメージして。老賢人が羽で書き付けた言葉とは?


(8)ロシア皇女姉妹オリガタチアナマリアアナスタシアの結束を象徴するOTMAサインのように、電光掲示板に現われる(SMK)は連続する私たちのイニシヤル妖精同盟。文字が声が降りてくる木曜日の朝、横断歩道を渡るあなたたちの背中に愛の羽を投げようもっともっと熱い愛を(マイガール8)#pw3t
may_kojima 2012/06/14 06:15:16

※※爆発!!って感じの「妖精同盟」はついに誕生した。タランティーノの映画かこれは?スクランブル交差点の、新宿アルタ前の電光掲示板に文字と声が響く?チャーリーズエンジェルのように、爆発の炎を従えて登場する3人の女性詩人。羽が舞う、言葉が降り注ぐ。愛のキューピッド?どうして?「だって貴方たちには愛が足りないもの」。


(9)虹が今朝着たブラウスのボタンに来ている。MISSING PERSONの顔写真が貼られている通路があった。すし詰めの車両から降り、人に押し流されても、見つけ続ける拾うと背中で白い羽根になる今日の本、CD、草や花、映画、彼女たちの声、刻まれ続ける一瞬、ここで(マイガール9)#pw3t
kitazume363 2012/06/15 12:25:45

※※爆発後の暗転が虹色の貝のボタンへとつながる。丸ノ内線はまだ走っている。あの娘がつかまるつり革。耳にはヒットソング。昨日見た映画に灰色の衣装は出てこなかったわ。なのにあたしはこんな色のスーツを着ている。ああ、スミレ色のブラウスが着たい。肩パッドにギリギリ引っかかる合皮のバッグ。お給料が出たら本革のグリーンのバッグを買おう、あたしには似合うはず。白とグリーンの混ざった、ワスレナグサみたいなバッグ。「ホクロ美人のマリリンみたいに。かわいいひとよ。」それはあたしではない。あたしのほお骨は低いから「泣いている少女の、なだらかな丘から」なんて表現はあてはまらない。でもあたしの「いま」が刻まれる・「いま」「いま」「いま」って。誰かダーツの矢でも放ってくれないかしら、すれ違う向かいのホームから。尖ってさえいれば何でもいいのに。天使の羽でもいい。無理。あたしは宗教を信じない。ならば妖精?それならまだ・・・


(10)ここで、飛び続ける。「上に、堕ちる」性愛に習った力学で。仰け反り。白い翼を逆しまに広げ、両足裏を打ち合わせ、高空で獲物を「拝み捕り」する!我々の生態。このままでいい。このままことばだけで、いきたい。ゆびいっぽんふれずに。愛をこめて。SMK砲撃ちまくれ!(マイガール10)#pw3t
sechanco 2012/06/16 08:08:40

※※最後の爆発で妖精も散り散りに?否。それは灰色のダストに?否。では何?波紋に。波紋?そう、花の波紋が水にとけて。とける?そう、雲の切れ間から光のように差し出される手のように境界がありながらもとけあって。その脇を動物のシルエットが流れて運ばれて。何が運ばれる?言葉が。言葉?違うよ「ことば」だよ。「ことば」は運ばれ、波紋は流れ、種を植え、花を咲かし、誰かがそれを摘む。摘んで摘んで摘んで新しくこさえて。何を?冠を、ブレスレットを。えっ?それは昨日の映画で・・・はいこれ。なに?羽だよ。裏を見てごらん、何て書いてある?「マイガール」そう「マイガール」。どうして?妖精同盟がさっき乱射してたんだ。両手を空に向けて拝むようにたたいたらこれが挟まってた。それをあたしに?だって貴方は生まれたばかりの精霊だから。もしかして水の?いや、ことばの。

長々と僕の妄想におつきあいいただき、ありがとうございました。pw3以外にもTwitter上ではたくさんの詩がうまれています。多くのことばに触れてもらえると嬉しいです。

飛手の空、透ける街

飛手の空、透ける街

ドストエフスキーの青空―宮尾節子詩集

ドストエフスキーの青空―宮尾節子詩集

詩誌エウメニデス    
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小川洋子「ホテル・アイリス」

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ出してくる…。少女と老人が共有したのは滑稽で淫靡な暗闇の密室そのものだった―芥川賞作家が描く究極のエロティシズム。

小川洋子の持ち味がいかんなく発揮された美しい物語。

美少女の前に突然現れた初老の翻訳家。その男が発した「黙れ、売女」という言葉。それを<こんな美しい響きを持つ命令を聞いたことがない、とわたしは思った。冷静で、堂々として、ゆるぎがない。「ばいた」という言葉さえいとおしいものに感じられた。>と思う少女は数日後に、偶然老人と再会し、その危険な関係は始まることになる。

結局ここに描かれているのは老人と少女のSM関係だ。美しさとは無縁の世界といっても間違いないだろう。しかし丹念に読み進めていけばいくほど、糸のように細い硝子細工で編まれたような世界が立ち上がってくる。繊細で、抑制がきいていて、かつ大胆な描写。暴力的な描写の後に、少女の得た感覚が並べられ、それが美しさを醸し出している。老人の情報はあくまでも少しにとどめ、ホテル・アイリスを中心とした風景の中に存在する少女と、その少女の鋭敏な感性を丹念に描くことで、小説世界のほぼ全てを構築してしまうこと。

幻想的な風景の中に突然割って入る生々しい感覚。そのバランスが素晴らしい。香りだけが辺りに漂っているような余韻の積み重ね、気配、それ以前の予感、微かに存在している何か。

少女特有の感覚も描かれているが、それすらもストレートにではなく、何か美的なものでコーティングされている。ある意味老成している少女の感性に、「老女予備軍としての少女」という矢川澄子の言葉を思い出した。ぜひ「薬指の標本」と合わせて読んでみて下さい。

しかし文庫版の表紙はあまりにも美しい。

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

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Give me your hand

酒を飲んで酔う。
そうすると自分の心の奥底に押込められている感情がむくむくと目覚めてくる。
なぜか。
アルコールの陶酔によっていろんなことがどうでもよくなるからだ。
どうでもいいってのは実は大事な部分で、いかに日常の中で我慢を強いられているかの尺度になる。
強いられている感じが強い程、それは反比例して強度を持つ。
シーソーゲームのように。
一人で酔っている時はなおさら解放率が高い。
だから過激な台詞や卑猥な妄想やこれが現時点の真実よ、なんてことがするすると出てくるのだ。
しかし理性が邪魔をする。
悩みをぶちまけることを阻止する。
シャーロットブロンテ、エミリーブロンテ、アンブロンテ。
三姉妹の物語を書きたいと思えど、そんな知識もセンスも持ち合わせていない自分には妄想するのが関の山。
それを愛と間違えることによって愛のなんたるかを知る、ことなんかあるのだろうか。
終わらない恋のほうが楽しくはないだろうか。
地獄・天国、客観的な意見なんかいらない、と思う。
当事者であること、そして自分が究極の恋愛を成就させようとやっきになっていること。
特別な人と互い傷つけ合いながら、傷つけ合うたびに反省して、でも自分の履歴なんて改稿できるわけもなくただうなだれて。
でも離れたくない一心でしがみついて、瞬間の喜びに打震えて。
例えばあの娘が「愛しているのは貴方だけなんです」と言えば天国で、「貴方となんか出会わなければよかった!!」とにらまれるか泣かれたりしたらもうこの世の終わりで死んでもいい。
まず追いつめられるのは自分の常識だ。
貴方はなんで俺ではないのだろうと無茶な想いが横切って、約束も未来も契約も無しに貴方と一緒にいることができればそれが究極なんじゃないかとふと頭をかすめて、でもそれじゃ嘘っぱちの責任逃れじゃんということもわかっていて、じゃあ心中しかないんじゃないかな?
俺の態度が貴方を壁に押し付けてる。
それは事実でしょうね。
押し付けた側はなぜそうしたのかもわからずに、続けざまにぐいぐいやってしまう。
ロボトミーのオペを自らやって性格を変えていけ。
メロドラマのどこが悪い。
泣きながら抱き合っていてもいいじゃないか。
裸で絡み合ってる時だけしか貴方を信じられない。
そんな台詞をもらった俺はどうすればいいのか。
俺の愛してるも一緒にいたいも全て効力を持たない。
出会ったことのない人種同士の不和、しかし雷同、でしょう?
解決するのは筋肉が育つ期間を待つのみなのか?
抱えた鞄の中には何が入っているんだい?ねえ?妄想のオンパレード。
太陽とか北風とかそんな悠長なリズムで日常は過ぎていかない。
絵本を手に取った時のふわりとした気分。
時間の流れが緩やかになったような、それでいて未来を感じさせる何か。
血のつながり、渡し合うこと。
そのイメージが醸し出す、人間の綱、つながって、つなげて、渡して、誰に?貴方に?えっ?渡していいのか、貴方に、汚れた爪でその手に触れていいのか。
明日なんか見えない、だから絵本なんかいらない。
絶望の歌。
ああ麗しの人生讃歌。
砂漠でもそれを声高に放てるのか?
帰れなくてもいい。
俺が欲しいのはその台詞だけだ。
永遠という言葉の2段上、もう少しで天使の羽に触れることのできる瞬間の心の欲動。
大きな擦り傷。
陸橋の上。
はじめからわかっていた。
そんな歌は必要ない。
忘れるために生きているのか?空しさをタイムテーブルに乗せながら、ああ今日も不本意だったと嘆くために生きているのか?
永遠に貴方のそばにいます。
「命ある限りそしてなお永遠に」。
そうだこんな荒唐無稽なフレーズをシャンパンの気泡に溶かせ。
許し合え、認め合え、馬鹿でも、嫉妬に狂っても、個性云々の前に。
それが他者だ。
自由自由自由。
2人でも自由なのか?幻想なのか?どこまで確かめ合えば幻想から解放されるんだ?何億光年想えばいいんだ?
俺が、貴方が、その互いの生をダイレクトに喜んで老いていく体を肯定できるのはいつなんだ。
束縛は甘い、自由は眩しい。
俺は束縛を選んだ。
束縛されることで書くべき手紙を端折って、生活に肉体を恐喝のテンションで混じらせて獣、能動的に食らいつくガーゴイルのレベルで世界を征服しようと思ったのだ。
俺達ならできるだろう、ねえ貴方。


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