柳美里不幸全記録

なぜ自らのヌードを表紙なんかにしたのだろう?なんて露出趣味なんだ!

と思えど、この800ページの書物が日記だということを考えれば、すべてをさらけ出すという意味においては合っている。控えめ、節度などを柳美里の本に求めることがおかしいのは100も承知。しかしやりすぎではないか。タイトルも凄すぎる。

子供への体罰、折檻、連載中止、新しいパートナーとの生活など大まかなトピックは、決して不幸なことだけではないのだが、それにも増して小さな不幸が数多く起こる。その度に悪態をつく著者にムカつきを覚える。そんなのあなたの我儘でしょう
?そこはグッと堪えて我慢すべきシチュエーションだよ、すぐに人に助けを求めるなよ、世界はあんたを中心に回っているわけじゃないんだぜ、などとツッコミの10や20も入れたくなる。

とにかく全身全霊で人生に立ち向かっている。読み進めるうちにそう思った。幸も不幸も全部しょってがむしゃらに。子供への虐待がよく取り沙汰されるが、それ以上に仲睦まじい母子の姿もきちんと活写されている。しかもそのやりとりには面白さと美しさの両方がバランスよく混ざり合っていて、その奇跡に泣きながら笑ってしまう。特に子供が発したなにげない一言の詩情性がこれほど数多くおさめられている本もめずらしく、あまたの小説家、詩人など足もとにも及ばない程の戦慄すべきフレーズも頻出する。この親にしてこの子ありだ、素晴らしい。

朝5時に起きてなにげなく読み始めたのだが止められず、仕事が終わったあとも二時間喫茶店にて続きを読んだ。濃密すぎる計6時間、ぶっ続けでジェットコースターに乗ってその直後に高速飛ばして二時間で大阪まで行ってそのまま朝まで飲み続けたような酩酊さだった。熱にうかされたようにという形容がまさしくぴったりの読書体験。

毒性のある、ともすれば自分の存在感が消えてしまうような決定的に過剰なものが読みたいわ!というあなたには是非にオススメです。凄まじいですよこいつは。


BGMにはすごい迷ってしまったが、この情念溢れる柳美里の日常とは対局の雰囲気を醸し出すEPOのdowntown。つい懐かしくなってTSUTAYAに借りに行きました。
EPO/DownTown